2015年1月20日

ポイント

・徐放性マイクロスフェア製剤「YS-1402」※1 の提供について小野薬品工業株式会社と契約を締結。
・本年6月から、虚血性心筋症に伴う重症心不全患者を対象に「YS-1402」の医師主導治験(第Ⅰ/Ⅱa相試験)を開始予定。
・進行性で予後不良な難治性心疾患に対する、低分子化合物徐放性マイクロスフェアー製剤による新規の体内誘導型心血管・心筋再生療法として期待。

概要

大阪大学は、厚生労働省の早期・探索的臨床試験拠点整備事業の一環として、小野薬品工業株式会社(以下「小野薬品」)との契約の下、虚血性心筋症に伴う重症心不全患者を対象として、低分子化合物「ONO-1301」の徐放性マイクロスフェア製剤(以下「YS-1402」)を用いた医師主導治験(第Ⅰ/Ⅱa相試験)(以下「本治験」)を2015年(平成27年)6月から開始予定です。

狭心症や心筋梗塞を含む虚血性心筋症は、心臓の筋肉に血液を供給する冠動脈の狭窄や閉塞により血流が阻害される疾患であり、心臓のポンプ機能が低下する心不全の原因となります。薬物療法やペースメーカー植込み等の内科的治療で改善しないような重症心不全では、カテーテル治療や冠動脈バイパス手術、心臓移植等の外科的治療が必要になります。また、最近では患者の細胞を取り出して培養した後、自己細胞を虚血心筋部に移植する方法も実施されています。

YS-1402の原薬であるONO-1301は元来、経口抗血小板薬として開発されたものですが、研究が進むにつれ様々な新しい薬理作用が見出され、新たな徐放性製剤YS-1402の開発により多種の他の疾患への使用、いわゆる「ドラッグ リポジショニング」※2 が行われた薬剤です。非臨床試験において、心筋虚血部に貼付投与することで、種々の体内再生因子を持続的に産生させて、血管や心筋の再生に関わる幹細胞遊走を誘導し、心機能を改善することが確認されています。同薬剤は、これまでの細胞を用いた再生治療のメカニズムを応用した薬剤であり、新しい創薬概念である「再生創薬」の一端を担うことが期待されています。本治験では、ヒトにおける第Ⅰ/Ⅱa相試験として、重症虚血性心筋症に対する冠動脈バイパス手術時に、YS-1402を浸み込ませたシートを心筋虚血部に貼付することにより、バイパス手術で血流が回復できない部位の心機能の改善効果、ならびにその安全性について評価します。本治験によって、既存療法に比べ、緊急性、汎用性に優れた低分子化合物による、体内誘導型心血管・心筋再生療法剤の開発につながることが期待されます。また本薬剤は、虚血性心筋症や拡張型心筋症等の心不全以外に慢性腎臓病(CKD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、脳梗塞、肺高血圧症、肺線維症、閉塞性動脈硬化症(ASO)等にも、非臨床研究で有効性が報告されています。

大阪大学では、本治験を平成30年1月までに終了させ、YS-1402の患者での安全性及び探索的な有効性を評価します。また、本治験終了後はその結果を踏まえ、小野薬品がその後の治験を実施するかどうかを検討する予定です。

重症心不全治療の現状

重症心不全をはじめとする難治性循環器疾患は、日本において3大国民病の内の1つであり、これらに対する根治的治療法は確立されていません。現在、世界中で約2,200万人、国内では160万人が心不全に罹患しており、そのうち薬剤による治療では改善が期待できない重症心不全の国内患者は、約10万人とされています。米国では、年間約2,200件の心臓移植が行われていますが、深刻なドナー不足に加え移植療法に閉塞感の強い日本では、年々増加する患者数に対応すべく、重症心不全に対する根本的治療の確立はどの国にも増して急務です。現在、世界において虚血心筋部に対し、自己細胞の移植療法が実施されており、また人工多能性幹細胞(iPS)から誘導された心筋細胞の移植療法も注目されています。しかし、これら細胞移植療法では、移植細胞の培養の煩雑性、緊急性、汎用性等、種々の問題の解決が必要です。

本医師主導治験の意義

大阪大学は、平成23年度より、厚生労働省の早期・探索的臨床試験拠点に選ばれており、今回の医師主導治験もその拠点整備事業の一環として実施されます。本拠点整備事業は、基礎研究のシーズから医師主導治験を実現し、医療の向上という形で社会に還元する体制を推進することを目的としています。本拠点整備事業において、大阪大学が行うべきことは、アンメット・メディカル・ニーズ(いまだ有効な治療法のない医療ニーズ)に対応する医薬品の創出や医療法の開発を加速化させることであると考えています。

重症心不全という難病に苦しむ患者様に一日でも早く優れた治療薬を届けることができるように、今回の医師主導治験により、医薬品の開発が促進されることが期待されます。

参考図

図1 YS1402

図2 YS1402 シート剤

用語解説

※1 徐放性マイクロスフェア製剤
粒子径が数十μm程度の生体分解性ポリマーの微小粒球中に薬剤を内包させた製剤。ONO-1301MS、ONO-1301SR等と表記してきたが、今後YS-1402と表記する。

※2 ドラッグ・リポジショニング
既存医薬品や開発途中で中止された化合物について、新たな適応を探索し製品化する手法。新薬認可が減少する昨今、開発の時間とコストを削減できるメリットもあり注目が集まっている。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/surg1/www

大阪大学の早期・探索的臨床試験拠点事業URL
http://www.ect.med.osaka-u.ac.jp/index.html

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