2014年12月24日

リリース概要

大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、大井一高研究員らは、統合失調症患者で特徴的に障害される知能、記憶、注意、実行機能など複数の認知機能に関わる遺伝子解析を行い、NMDA受容体を介したグルタミン酸機能や主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を介した免疫機能に関わる遺伝子ネットワークが疾患の認知機能に関与していることを新たに見出しました。この発見は、統合失調症、認知機能、脳構造などの全ゲノム関連解析(GWAS:genome wide association study)を行っている橋本准教授らの共同研究の成果として見出されたものです。これまでに、統合失調症の病因としてグルタミン酸や免疫機能が関わっていることは報告がありましたが、統合失調症の認知機能障害の病因にも同様にグルタミン酸や免疫機能が関わっていることを同定したことは、精神医学領域において注目される成果です。今後、これら遺伝子ネットワークに対する創薬を開発することにより、統合失調症だけでなくその認知機能障害にも奏効する創薬の開発が期待されます。なお、本研究成果は、米国科学雑誌Schizophrenia Bulletinの電子版に12月23日(火)(米国東部標準時)に掲載されました。

研究の背景

統合失調症は約100人に1人が発症する精神障害です。思春期青年期の発症が多く、幻覚・妄想などの陽性症状、意欲低下・感情鈍麻などの陰性症状、認知機能障害等が認められ、多くは慢性・再発性の経過をたどります。社会的機能の低下を生じ、働くことが困難で自宅で闘病する患者も多く、日本の長期入院患者の約70%が統合失調症です。精神症状よりも認知機能障害が、社会機能と相関することから、認知機能障害が注目されています。しかし、陽性症状を中心とする精神症状に効果のある薬剤はあるものの、統合失調症の認知機能障害を改善する薬剤は未だなく、現在、新たな薬剤の開発が期待されている分野です。統合失調症の認知機能障害のメカニズムは解明されておらず、創薬ターゲットとなる遺伝子や遺伝子ネットワークの発見が待ち望まれていました。

橋本准教授は、大阪大学医学部附属病院神経科・精神科において、統合失調症専門外来を行い、受診する統合失調症患者に認知機能検査、脳神経画像検査、神経生理学的検査など詳細な評価を行って、その診断と治療に従事してきました。その一方、「精神病性障害の遺伝子解析研究」として、これらの検査データである中間表現型と遺伝子の関連を検討してきました。そこで、まず健常者において、統合失調症において特徴的に障害される知能、記憶、注意、実行、社会認知機能など52種類もの認知機能の網羅的な全ゲノム関連解析(GWAS)を行いました。DNAチップを用いて100万個以上の遺伝子多型(SNP:Single nucleotide polymorphism)を決定し、全ゲノムにおいてそれぞれのSNPに対する認知機能との関連を検討することによって、個々の認知機能に関わるSNPを検出しました(上図)。次に、検出したSNPが統合失調症患者においても同様に認知機能に関わっているかを検討して、健常者患者双方の認知機能に関与するSNPを同定しました。

そして、同定したSNP近傍の遺伝子のネットワークを解析することによって、NMDA受容体を介したグルタミン酸機能や主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を介した免疫機能に関わる遺伝子ネットワークが統合失調症の認知機能障害に関与していることを同定しました(下図)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、統合失調症の認知機能障害に特徴的な遺伝子ネットワークが同定されたことから、認知機能障害改善薬を開発するための基盤となる創薬ターゲットが発見されたといえます。これらの遺伝子ネットワークは統合失調症の病態だけでなく疾患の認知機能障害の病態にも関わることが示されたことから、将来的にこれらの遺伝子ネットワークをターゲットとした統合失調症やその認知機能障害の改善薬が開発されれば、統合失調症患者の社会機能が改善し、多数の入院患者が退院し、家庭での役割を果たすことができるようになったり、労働に従事することができるようになることが期待されます。また、GWASという手法にて統合失調症や双極性障害の遺伝子が見つかってきていますが、神経生物学的な側面(中間表現型)として同時にこれだけ多数の認知機能に着目したGWASはなされていませんでした。今後、統合失調症だけでなく様々な精神障害において、中間表現型を用いた研究手法が発展することが予想されます。

特記事項

本研究は、大阪大学医学部附属病院神経科・精神科にて、今までに集積してきた日本随一の精神疾患のリサーチリソース・データベース「ヒト脳表現型コンソーシアム」を活用して得られた成果です(下図)。臨床研究における中核的な拠点である大阪大学医学部附属病院では、トランスレーショナル・リサーチを推進していますが、神経科・精神科では、詳細な脳機能データの付随する血液サンプル(ゲノムサンプル、血漿、RNA、不死化リンパ芽球)を2000例以上集めており、これらを用いて各診療科と連携した研究が発展することが期待されます。また、近年、欧米ではコンソーシアムを形成して大規模サンプルを集めて研究を進めています。日本国内のみで欧米のコンソーシアムのような大規模サンプルを集めることは難しいですが、日本は島国であり遺伝的均一性が高いという遺伝研究における利点を利用して、認知機能を中心とするCOCORO(Cognitive genetics collaborative research organization)と脳神経画像を中心とするIGC(Imaging Genetics Consortium)を設立してALL JAPANの共同研究体制にて様々なプロジェクトを開始しています。

用語解説

GWAS:genome wide association study (全ゲノム関連解析)
病気に罹患している集団と一般対照集団との間でアレルの頻度の違いを検定し、病気のリスクとなる遺伝子や多型を見出すことを,全ゲノム領域の各多型に対し行う方法です。

SNP:single nucleotide polymorphism (一塩基多型)
ヒトのDNAの個人差を表すものであり、様々な病気のリスクや治療反応性に関連していると考えられています。

中間表現型
精神疾患に特徴的な神経生物学的な表現型であり、認知機能、脳神経画像、神経生理機能などがあります。

参考URL

分子精神医学研究グループHP
http://www.sp-web.sakura.ne.jp/lab/index.html

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