2014年9月29日

リリース概要

大阪大学大学院理学研究科 原田明特別教授らは、鈴木・宮浦クロスカップリング反応※1を利用した共有結合形成による材料の接着を実現しました (図1) 。本研究は、化学反応により材料同士を直接的に接合するという新たな手法であり、フェニルボロン酸を有するヒドロゲル※2 (PB-gel) とヨウ素を有するヒドロゲル (I-gel) 間、及びこれらのヒドロゲルと対応する置換基を有するガラス基板間において、その接触界面で金属触媒を用いた鈴木・宮浦クロスカップリング反応を行うことで、共有結合形成によるこれらの接着を達成しました。本研究は、共有結合形成による材料同士の接着という新たな接着手法を示すもので、この方法により材料同士を接着剤無しで、安定に接着することができます。また、鈴木・宮浦クロスカップリング反応を利用した共有結合形成により材料間の接着を達成した世界で初めての成果です。

本研究の成果は、ロンドン時間2014年9月18日に英科学誌「Scientific reports(サイエンティフィック・レポーツ)」オンライン速報版で公開されました。

研究の背景

近年、”接着”は材料工学をはじめとする様々な分野において広く用いられ、その耐久性や強度向上に対する多くの研究が行われています。しかし、その接着原理の多くが表面の引っ掛かり (アンカー効果) や、分子間力を利用したものであり、特に、接着剤を利用して材料を間接的に接着させる試みが多く行われてきました。これに対して我々は近年、シクロデキストリン※3 (CD) の包接作用を利用したヒドロゲル同士の直接接着を報告しています[文献1]。この報告は、ミクロスケールで起こるCDと炭化水素分子間のホスト-ゲスト相互作用※4による分子認識を、ヒドロゲル同士の直接接着というマクロスケールの事象として発現したものであり、これにより我々は非共有結合による材料間の直接結合を達成しました。

この発見をもとに本研究において我々は、非共有結合よりもより強固にかつ安定に材料が接着すると考えられる、共有結合による材料同士の直接接着という新たな手法の開発を目指しました。

[文献1] Harada, A.; Kobayashi, R.; Takashima, Y.; Hashidzume, A.; Yamaguchi, H. Nature Chem. 2011, 3, 34.

本研究内容と成果

本研究では共有結合形成反応として鈴木・宮浦クロスカップリング反応を選びました。鈴木・宮浦クロスカップリング反応は、炭素-炭素結合を形成する重要な反応の一つとして知られており、ボロン酸とハロゲン化物間で反応が起こり、新たな共有結合が形成されます[文献2]。フェニルボロン酸を有する高分子ヒドロゲル (PB-gel(x))とヨウ素を有するヒドロゲル (I-gel(x))、また、リファレンスとしてフェニルボロン酸もヨウ素も有さないAAm-gelを作製し (図2a) し、これらのゲルを重ね、塩基性水溶液、及びPd錯体のアセトン溶液を添加したのち、室温で5時間静置すると、積み重ねたゲル同士が接着する様子がみられ、片方のゲルを持ち上げるだけで他方のゲルもともに持ち上がる様子がみられました (図2b, Movie S1) 。この接着は、ボロン酸を含まないゲル、または、ヨウ素を含まないゲルを用いた場合、あるいは触媒を添加しなかった場合では観察されませんでした。また、プランジャーによるゲル界面の破断試験を行い、このゲル同士の接着の強さを調べたところ、破断にかかる強さは官能基導入率xの増加に伴って増大することが分かりました。これらのことから、ここでみられた接着は、ゲル界面で鈴木・宮浦クロスカップリング反応が進行し、ゲル間に共有結合が形成されたために起こったと考えられます。

また我々は、異種材料間の接着にも取り組みました。ソフト材料であるゲルに対して、ハード材料としてガラス基板を選び、ボロン酸を修飾したガラス基板 (PB-Sub) とヨウ化アリールを修飾したガラス基板 (I-Sub) を作製しました。これらを用いてゲルとガラス基板間の接着も試み、I-gel(x) の上にPB-Subを重ね、塩基性水溶液、及びPd錯体のアセトン溶液を添加し、静置したところ、24時間後に両材料が接着する様子が観測されました (図2c) 。I-gel(x) の上にPB-Subを重ね、同様の操作を行った場合にも、ゲルと基板の接着がみられました。この接着においても、ゲル間の接着の場合と同様に、ボロン酸を含まない、または、ヨウ素を含まない場合、あるいは触媒を添加しなかった場合には接着は観察されませんでした。また、ゲル-基板の接着においても、その接着の強さはゲル側の官能基導入率xの増加に伴って増大しました。これらのことより、我々はこの共有結合形成反応を利用した接着機構が、ソフト材料であるゲル同士に限ったものではなくソフト-ハード材料間にも適応できることを見出しました。

本研究の一般性として、接着剤を用いて、二つの材料を接着させた後、有機溶剤に浸漬させると、接着剤が溶解する結果、二つは乖離してしまいました。ところが今回の手法を用いて接着させると、有機溶媒に浸漬させても、乖離することはありませんでした。これは二つの材料間が直接共有結合により、強固に接合されていることに因ります。

[文献 2] Miyaura, N.; Suzuki, A. Chem. Rev. 1995, 95, 2457.
※Movie S1は下記のアドレスにアクセスして頂くと、ご覧いただけます。
http://www.nature.com/srep/2014/140918/srep06348/full/srep06348.html

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、異なった二つの材料同士を、鈴木・宮浦クロスカップリング反応を利用した共有結合形成によって直接接着させた世界で初めての例であり、分子レベルで起こる共有結合形成反応を、材料の接着の制御というマクロスケールの効果として発現した画期的な試みです。また、接着が共有結合形成によるものであることにより、この接着の適応範囲は広く、様々な環境において安定に接着が保持されることが期待できます。本研究成果は、”接着”における新たな手法として、材料工学、バイオマテリアルなど、様々な分野での応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は2014年9月18日(英国時間)に英国科学雑誌「Scientific reports」のオンライン速報版で公開されました。

参考図

図1 鈴木・宮浦クロスカップリング反応を利用した共有結合形成による材料同士の接着

図2 (a)ボロン酸を有するヒドロゲル (PB- gel(x)) とヨウ素を有するゲル (I- gel(x))、いずれの置換基も含まない対照ゲル (AAm-gel) の化学構造。(b) PB-gel(10)とI-gel(10)の接着。 (c) PB-SubとI-gel(10)の接着

用語解説

※1 鈴木・宮浦クロスカップリング反応
芳香族化合物の合成方法の一つ。パラジウム触媒と求核剤の存在下で、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物を反応させることで、新たにC-C結合が形成される。

※2 ヒドロゲル
高分子ヒドロゲルを指す。高分子ゲルは、高分子が架橋されることで三次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒を吸収した高分子材料であり、固体と液体の中間的な物性を示すことが多い。特に、溶媒が水のものを高分子ヒドロゲルと言う。

※3 シクロデキストリン
数分子のD-グルコースが α(1→4) グルコシド結合によって結合し環状構造をとった環状オリゴ糖。CDと略されることが多い。内部の疎水的な空孔に疎水性の分子を取り込む (包接という) 能力を有する。

※4 ホスト-ゲスト相互作用
特定の分子を選択的に認識できる高い秩序を持った空間を提供する分子をホストといい、そこに受け入れられる分子をゲストという。このホスト分子とゲスト分子は「鍵と鍵穴」の関係のように、高い選択性をもって特定の構造体を形成する。この「鍵と鍵穴」の関係にある二つの分子が構造体を形成するときに働く相互作用を指す。

参考URL

掲載雑誌Scientific Reportsの該当ページ
http://www.nature.com/srep/2014/140918/srep06348/full/srep06348.html
原田研ホームページ
http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/harada/

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