2014年9月4日

リリース概要

大阪大学大学院理学研究科の高見剛助教、分析機器測定室の川村和司技術職員は、自己組織化※1を利用して従来手法よりも容易な合成手法を用いることによって、2つの分子が1次元方向に連なった、新物質1次元2量体の合成に成功しました。また、この物質に含まれる特徴的な1次元空間を水素吸蔵※2に利用すると、本物質の吸蔵量は、室温における既存の金属有機構造体(MOF)の吸蔵量の中で、最大であることを発見しました。室温での動作性がこれまでの課題であり、それが克服できた理由としては、従来の単純な物理吸着※3や化学吸着※4とは異なる新しい吸蔵機構の可能性が示唆されたことにあります。本研究成果は、水素社会の実現に向けて、水素吸蔵の観点から貢献することが期待されます。

本研究成果は、2014年9月4日10時(米国東部標準時)、米国物理協会が出版する「APL Materials (Vol. 2, Issue 9)」のオンライン版にて公開されます。

研究の背景と研究成果

近年、エネルギー・環境問題が深刻化する中、石油代替エネルギーの実現のため水素社会の実現が期待されています。そのためには、エネルギーキャリアとしての水素を貯蔵・放出する技術の確立が必要となります。例えば、水素は燃焼反応により水になるのみで、燃料電池として利用すれば、電気自動車の動力源にもなります。しかし、既存の水素吸蔵合金や多孔性物質などは、その重量、水素吸蔵・放出の不可逆性、室温での動作性に問題があり、幅広く応用できていません。最近、金属元素と有機元素から成る金属有機構造体が水素吸蔵物質の新たな候補として注目されていますが、いずれも3次元のフレームワークを形成する結晶構造の特徴を利用した物理吸着のため、室温での動作性が応用へ展開するのに十分でありませんでした。

本研究では、図1に示すように、これまでほとんど注目されてこなかった弱塩基性物質を用いて新物質を創製しました。特に、従来の手法とは異なり、合成過程で熱・圧力を加えず自己組織化を利用した容易な手法で合成しています。

また、新物質の合成のみならず、1次元構造間に含まれる空間を水素吸蔵に利用するという着想のもとで水素吸蔵特性を調べた結果、室温における既存の金属有機構造体の中で最大の水素吸蔵量(2.5-3 wt%)を発見しました。拡散が速いという1次元の特徴を反映して、本新物質では水素化速度が速く、また水素吸蔵・放出の圧力依存性が可逆特性を示すことから、応用への利点となります。金属有機構造体などの多孔性物質は物理吸着を利用しているため、低温での吸着量には優れていますが、室温ではその特性は著しく低下するという欠点があります。今回合成した物質では、水素が原子として1次元空間に捕獲されていることが、室温での優れた水素吸蔵特性に起因していると考えられます。

以上のように、今回の研究成果は、容易な手法で新物質を合成するとともに、これに新しい吸蔵機構により水素吸蔵という機能を融合させる特徴的なものでもあると同時に、水素社会実現という社会的要請に答え得るものでもあります。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回の成果は、室温において多くの水素を効率良く吸蔵・放出する物質開発への道を拓き、今後さらなる新たな物質群の創製や吸蔵特性の向上につながるものと期待できます。このことにより、水素を効率よく貯めることが可能になり、例えば、水素を利用した燃料電池において長時間電気を生み出すことができます。さらに、本合成手法を用いることにより水素吸蔵以外の低次元特有の物性や機能の発現の舞台を提供することができ、物質科学の新たな基盤を築く可能性も秘めています。

特記事項

本研究成果は、米国物理協会が出版するAPL Materials (Vol. 2, Issue 9)に掲載されます。
論文タイトル:
“Hydrogen atom trapping in a self-organized one-dimensional dimer” T. Takami and K. Kawamura

また、以下の特許としても出願されています。
“金属有機構造体及びその製造方法” 特願2014-105966, 発明者: 高見剛, 出願人: 大阪大学

参考図

図1 自己組織化を経て得られる1次元2量体の合成
(a)Cu(HCO2)2・4H2O, (b)C5H5N, (c)1次元2量体C12H12CuN2O4, (d)C12H12CuN2O4の単結晶写真。
C, O, Cu, N, Hはそれぞれ緑色、オレンジ色、青色、黄色、ピンク色で示されている。
(a)中の水分子は省略し、(c)では2量体が破線で囲まれている。

用語解説

※1 自己組織化
材料や素子を合成・作製する際に、エネルギーや物質が拡散していく動的過程の中で材料や素子の構成要素が自発的に集まることにより、ある構造やパターンを形成すること。

※2 水素吸蔵
化石燃料に代わる再生可能エネルギーに貢献するエネルギーキャリアである水素が吸収され、固体内部に取り込まれて貯えられる現象。

※3 物理吸着
物理吸着は固体表面や隙間などに吸着される分子がファンデルワールス力(分子間力)で吸着される現象。エネルギー的に比較的不安定で、低温で吸着脱離が起こり、可逆特性を有する。

※4 化学吸着
化学吸着は固体表面や原子間などに吸着される原子が化学結合により吸着される現象。大きなエネルギーがないと脱離は起こらず、一般的に不可逆特性を有する。

参考URL

研究室HP
https://www.phys.sci.osaka-u.ac.jp/en/research_groups/group/01-3_nozue/takami/index.html
http://www.geocities.jp/thermopower2000/
http://www-nano.phys.sci.osaka-u.ac.jp/
研究者総覧
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/view?l=ja&u=2647

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