2014年7月29日

本研究のポイント

・心筋が分泌するangiopoietin-1が胎生期の心臓の冠静脈形成に必須であることを発見。
・心臓に隣接する静脈洞の内皮細胞は未分化な内皮細胞と静脈内皮細胞の2種類から成ることを発見。
・angiopoietin-1が静脈洞の未分化な内皮細胞を心臓内へと遊走させて静脈分化させるメカニズムを発見。

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(循環器内科学)の中岡良和助教(JST・さきがけ研究者兼任)、有田陽大学院生、坂田泰史教授らの研究グループは、心臓の血管新生に関する新しいメカニズムを発見し、心臓の循環を支える冠動脈と冠静脈の形成は別の増殖因子で制御されることが初めて明らかになりました。

これまで冠動脈については、心筋細胞が分泌する血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor: VEGF)の作用により心内膜内皮が発芽して形成されることは報告されていましたが、冠静脈形成のメカニズムは明らかではありませんでした。

今回、心筋細胞が分泌する血管新生因子の1つであるangiopoietin-1(Ang1)を、心筋特異的に欠損するマウスを作成したところ、このマウスの冠動脈の形成は正常で、冠静脈が特異的に欠損していることを見出しました(図1)。さらに、胎生期のマウスの心臓に隣接する静脈洞に存在する未分化内皮細胞が、心筋の分泌するAng1の作用によって心臓内へ遊走して、更に静脈内皮へと分化することで冠静脈が形成されることが明らかになりました。今後、心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患に対する新しい血管新生療法の開発に繋がると期待されます。本研究成果は、2014年7月29日(英国時間)に英国科学誌Natureの姉妹誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されます。

研究の背景

生活習慣病を背景とした心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患が欧米と同様に我が国でも増加の一途を辿っています。虚血性心疾患に対しては、効率良く血管新生を誘導できる新規の治療法の開発が望まれます。そのために心臓での胎生期の冠血管新生のメカニズムを明らかにする必要がありますが、詳細はこれまで明らかではありませんでした。

また、マウスの胎生期の心臓には冠血管は胎生10.5日まで存在せず心筋細胞に酸素や栄養物は受動的拡散で供給されますが、それ以降胎生15.5日までの間に急速に冠血管が形成されて冠血管による供給へと移行して心臓の成長を支えます。その冠血管の発生起源とメカニズムについてはこれまで長い間議論が続いてきました。哺乳類の冠動脈は心内膜内皮が心筋の分泌するVEGFの作用で心筋内へ発芽することで形成されることを2012年に米国のグループが報告しましたが、一方で冠静脈の形成のメカニズムと起源はこれまで不明でした。

研究の成果

本研究グループでは、以前に心臓組織内の内皮細胞が分泌する増殖因子のneuregulin-1が心筋細胞に作用することで、心筋細胞から血管新生因子Ang1が分泌されて、成体の心臓の恒常性維持に必須の役割を担うことを明らかにしていましたが、今回の研究では心筋特異的Ang1欠損(Ang1CKO)マウスを作成して、心筋細胞が分泌するAng1が冠静脈の形成に必須であることを明らかにしました(図1)

研究グループは、さらに冠静脈内皮細胞の起源を明らかにするために、胎生10.5日にAng1の受容体であるTie2遺伝子を発現する内皮細胞を追跡できるレポーターマウスから心房と隣接する静脈洞を取り出して、正常マウス胚とAng1CKOマウス胚から心室を取り出して、両者を結合して3日間器官培養して、Tie2陽性内皮細胞の心室への遊走・進入を可視化しました。その結果、Ang1を分泌する正常マウスの心室にはTie2陽性細胞の進入が見られましたが、Ang1CKOマウスの心室には見られませんでした(図2)。以上より、心筋が分泌するAng1が静脈洞の内皮細胞を心臓へと遊走させて冠静脈形成を誘導することが明らかになりました。

これまで静脈洞には静脈として分化した内皮細胞のみが存在すると考えられていましたが、研究グループは静脈洞には分化した静脈内皮細胞と未分化内皮細胞の2種類の細胞が存在していることを見出して、特に静脈洞の未分化内皮細胞がAng1の作用で心房・心室へ進入して、心筋の分泌するAng1の作用で静脈内皮に分化することで冠静脈が形成されることを明らかにしました(図3)。以上より、胎生期の心臓では冠静脈は冠動脈と全く異なる起源とメカニズムで形成されることが初めて明らかとなりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

心疾患による死亡は日本人の死因別死亡数全体の中で悪性新生物に続く第2位(約16%)を占め、このうち急性心筋梗塞が心疾患全体の約22%を占めており、虚血性心疾患に苦しむ患者数は非常に多いことから、虚血性心疾患に対する有効性の高い新規治療法の開発が望まれています。本研究では、胎生期の心筋が分泌するAng1は心臓に隣接する静脈洞の内皮細胞を心臓内へ遊走させることで、冠静脈形成に必須の機能を担うことを明らかにしました。これまで既に解明されていた胎生期の心臓での冠動脈の形成メカニズムに加えて、本研究により冠静脈の形成メカニズムが明らかとなったことで、今後、これらのメカニズムを応用することにより成体の虚血性心疾患に対する新しい血管新生療法の開発に繋がることが期待されます。

特記事項

本研究は、大阪大学、東京大学、京都大学、慶応大学、国立循環器病研究センター、KAIST(韓国)との共同で行ったものです。また、本研究は独立行政法人科学技術振興機構(JST)さきがけ「生体における動的恒常性維持・変容機構の解明と制御」(研究総括:春日雅人国際医療センター総長)研究課題名:「内皮細胞を起点とした心血管系の恒常性維持機構の解明と制御」さきがけ研究者・中岡良和(大阪大学大学院医学系研究科助教)の一環として行いました。

本研究成果は、2014年7月29日(英国時間)に英国科学誌Natureの姉妹誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されます。

論文タイトル” Myocardium-derived angiopoietin-1 is essential for coronary vein formation in the developing heart”
(心臓由来のangiopoietin-1は発生期の心臓の冠静脈形成に必須である)

参考図

図1 心筋特異的angiopoietin-1(Ang1)欠損マウスは冠動脈形成には異常を呈さず、冠静脈を特異的に欠損することから、心筋の分泌するAng1は冠静脈形成に必須であることが明らかとなった。

図2 心筋の分泌するAng1は静脈洞内皮細胞を心室へ向かって遊走させる
静脈洞の血管内皮細胞を可視化することが出来るTie2-lacZノックインマウス由来の静脈洞(SV)と心房(A)を胎生10.5日に取り出して、胎生10.5日の心室(V+Epi)を野生型マウスあるいはAng1CKOマウスから取り出して結合して器官培養を行ったところ、野生型マウスの心室(V+Epi)にはTie2陽性内皮の進入が見られたが(左:点線より下部の青いシグナル)、Ang1CKOマウスの心室(V+Epi)への進入は見られなかった(右)。

図3 心筋が分泌するAng1による冠静脈形成のメカニズム
胎生10.5日の静脈洞(SV)には静脈分化した内皮細胞(青色)と未分化な内皮細胞(黒色)の2種類の細胞が存在する。そのうち未分化内皮細胞(黒色)が先行して心房(RA)・心室(RV)へ進入していく。正常マウスの心臓では静脈分化した冠静脈内皮(青色)が出現するが、Ang1CKOマウスでは静脈分化した内皮細胞は全く出現しない。

用語解説

冠血管
心臓に血液を供給する血管系で、冠動脈と冠静脈からなる。冠血管による血液供給が破綻することで虚血性心疾患は生じる

血管新生
既存の血管から新たな血管枝が分岐して血管網を構築する生理的現象

Angiopoietin-1(Ang1)
Vascular Endothelial Growth Factor(VEGF)と並ぶ代表的な血管新生因子の1つで受容体型チロシンキナーゼTie2を主な受容体とする。Ang1はTie2との結合を介して血管構築の静止状態の維持に重要な役割に必須とされる。全身のAng1欠損マウスは心臓形成不全、血管成熟化の異常による胎生致死を示す。

虚血性心疾患
心筋梗塞や狭心症などの動脈硬化を背景として心臓の冠動脈に狭窄や閉塞が生じることで発症する疾患

器官培養
生物の器官や組織片を無菌的に分離して、液体または寒天培地を用いて培養すること

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(循環器内科学)
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/cardiology/27research/2751res.html

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