2014年7月11日

本研究成果のポイント

・ナノ空間に閉じ込められた単原子を操作する方法を発見
・1つ1つの原子を操作して、ナノクラスターを室温で組み立てることに成功
・複数の元素からなるナノクラスターを自由に創製する方法を確立

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の杉本宜昭准教授、大阪大学産業科学研究所のAyhan Yurtsever特任講師、森田清三特任教授、大阪大学大学院基礎工学研究科の阿部真之教授らは、表面に吸着させた個々の原子からナノクラスター※1 を組み立てるための、新しい原子操作の方法を発見しました。構成原子数と組成を制御して、ナノクラスターを組み立てることが可能になるため、単電子デバイスやナノ触媒などを設計通りに創製することができます。

研究の背景と研究成果

数個から数百個の原子から構成されるナノクラスターは、単一の原子とも、マクロな固体とも異なるユニークな性質を持つために注目されています。ナノクラスターの特徴の1つは、構成する原子数や元素によって、劇的に性質を変化させることです。特に表面上に固定されたナノクラスターは、単電子デバイスやナノ触媒などへの応用が期待されています。

表面上のナノクラスターは、これまで様々な手法で作製されてきました。そのうちの1つは、表面に構成元素を蒸着※2 し、表面の周期構造をテンプレートとして利用して、一様なサイズをもつナノクラスターを自発的に生成させる方法です。このような手法は、一度にたくさんのナノクラスターを作製できるものの、ナノクラスターの構成原子数を決めることが困難でした。そのために、最も基本的であるナノクラスターの構造を決定することが難しいという問題がありました。

今回、研究グループは、走査型プローブ顕微鏡※3 を用いて、原子1つ1つを動かして、個々の原子からナノクラスターを組み立てる新しい原子操作※4 の手法を発見しました。実験には、応用上重要であるシリコンの表面を使いました。シリコン表面は、周期的な表面構造を持ち、ナノ空間が周期的に配列しているとみなすことができます。この表面の上に原子を蒸着させると、単原子がナノ空間に閉じ込められて、拡散しているという状況が実現します。次に、そのナノ空間の境界付近に、探針を近づけることによって、1つのナノ空間に閉じ込められている単原子を隣のナノ空間に移動させることができることを発見しました(図1(a))図1(b)と(c)は、それぞれ、金の単原子の操作前と操作後の顕微鏡画像です。この原子操作の際に、探針にかかる相互作用力や、探針と表面の間に流れる電流を詳しく解析しました。その結果、探針と単原子との間に働く化学結合力によって、ナノ空間をまたぐ原子移動が起こることが明らかになりました。

この原子操作の方法を使うと、構成原子数や組成を定めたナノクラスターを、室温で創製することが可能になります。まず、構成元素となる原子を表面に蒸着します。次に、原子操作によって、1つのナノ空間に、原子を1つずつカウントしながら入れていきます。これによって、ナノ空間内に予め定めた組成のナノクラスターを組み立てることができます。図2にナノ空間に金原子を1個から12個閉じ込めて、創製したナノクラスターの画像を示します。金ナノクラスターは、構成原子数によって、様々な形をとることがわかります。また、図3に示すように、金や銀のナノクラスター、金と鉛の合金のナノクラスターなど、様々な組成のナノクラスターを創製することもできます。このように、ナノ空間に閉じ込められた単原子の元素を識別しながら原子操作できるため、通常の方法では難しい複数の元素で構成されたナノクラスターも創製することもできます。

本研究によって、原子の個数と組成を予め設計した通りにナノクラスターを創製することができます。したがって、ナノクラスターの化学的な安定性や機能が、構成原子数にどのように依存して変わるのか、また、異種原子のドープによって、どのようなシナジー効果が起こるのかを調べることができます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ナノクラスターは、ユニークな性質を持つために単電子デバイス、ナノ磁石、ナノ触媒など、多くの応用が期待されています。今回、原子の個数と組成を予め設計した通りにナノクラスターを創製できることが示されたので、ナノクラスターの電子的、化学的性質が、サイズや組成によって、どのように変化するのかを詳細に調べることができます。したがって、将来、我々の生活に関わる、新しい材料やデバイスの開発に結びつくと期待できます。

特記事項

本研究成果は、Nature Communications, vol.5, (2014) 10.1038/ncomms5360に掲載されます。
‘Mechanical gate control for atom-by-atom cluster assembly with scanning probe microscopy’
Yoshiaki Sugimoto, Ayhan Yurtsever, Naoki Hirayama, Masayuki Abe, and Seizo Morita

本成果は、以下の研究支援事業によって得られました。
・独立行政法人日本学術振興会 先端研究助成基金助成金(最先端・次世代研究開発支援プログラム)
・独立行政法人日本学術振興会 科学研究費補助金

参考図

図1 ナノ空間をまたぐ単原子操作
(a)模式図 (b)原子操作前の顕微鏡画像(右の三角形の中に1つのAu原子が閉じ込められて拡散している。) (c)原子操作後の画像(左の三角形にAu原子を移動させた。)

図2 原子操作によって創製した金のナノクラスター
ナノ空間に1つずつ金原子を加えていき、12個の金原子からなるナノクラスターまで、創製している。

図3 原子操作によって創製した様々なナノクラスター
金原子12個、17個からなるナノクラスター、銀原子12個からなるナノクラスター、金原子5個と鉛原子1個からなる多元素ナノクラスターが示されている。

用語解説

※1 ナノクラスター
数個から数百個の原子から構成される原子の集合体。この集合体(クラスター)のサイズはナノメートル程度であり、通常の固体とは異なる性質を持つことから、新しい物質群として期待されている材料である。例えば、金の固体は化学的に不活性である貴金属の代表であるが、金のナノクラスターは化学的に活性となり、触媒としても使えることが知られている。

※2 蒸着
真空中で、物質を高温で加熱して、蒸発させて、その物質を構成する原子を表面に吸着させること。

※3 走査型プローブ顕微鏡
鋭い針(探針)を観察したい表面上でスキャンすることによって、表面の原子を観察する顕微鏡。探針にかかる力を測定する原子間力顕微鏡や、探針と表面の間に流れる電流を測定する走査型トンネル顕微鏡などがある。

※4 原子操作
走査型プローブ顕微鏡の探針を表面の原子に接近させて、相互作用により表面の1つ1つの原子を動かす技術のこと。究極のナノテクノロジーとして期待されている。

参考URL

大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻 原子分子操作組立領域
http://www.afm.eei.eng.osaka-u.ac.jp/index.html

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