老化・がん化の原因となるDNA損傷が起こる仕組みが明らかに
DNA酸化の新たな危険性やDNA修復の重要性を示唆 新たな病因の解明に期待
リリース概要
大阪大学大学院基礎工学研究科の倉岡功准教授を中心とした研究グループは、エピジェネティック な新規のシトシン塩基に生じる酸化損傷カルボキシシトシンが、DNA損傷を引き起こすことを明らかにしました。これらの損傷が、細胞死や突然変異を誘発し、ひいては老化・がん化など、新たな病気の原因になることが考えられます。このことは、ヒトにおけるDNA酸化の新たな危険性およびDNA修復の重要性を示すものだと思われます。
研究の背景
生命情報を担う重要な物質であるDNAは、生命が正常に営まれるためにその情報を安定に維持しなければなりません。しかし、一方でDNAは放射線、紫外線、化学物質などの外的要因、および細胞の代謝過程で発生する活性酸素などの内的要因により絶えず損傷を受けています。これらの損傷は、細胞死や突然変異を誘発し、ひいては老化・がん化などを引き起こします。
生体内のDNAは、アデニン、シトシン、グアニン、チミンの4つの塩基から構成されますが、この他にエピジェネティックな遺伝子発現の調節のために、メチルシトシンと言う塩基が存在しています。この塩基は生体内のTETファミリー酸化酵素 により酸化を受け、カルボキシシトシン まで代謝され酸化塩基となりますが、この酸化塩基の挙動は十分に解析されていませんでした。
今回我々は、この塩基におけるDNA合成反応 を解析した結果、カルボキシシトシンがDNA合成反応を阻害すること、さらにミスマッチDNA修復経路 を通じて、そのDNA合成阻害反応が細胞死を導く可能性があることを示しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
DNA損傷は、細胞死および突然変異を誘発するため、様々な病気の原因となります。我々が今回発見したタイプのDNA損傷は、エピジェネティックな変化に応じて生体内で頻繁に生じていると考えられます。さらに、その損傷はTETファミリー酸化酵素と異なる経路として、酸化ストレスにより生じる可能性もあります。その損傷がどのような病気に関連していくかはまだ謎ですが、ヒトにおけるDNA酸化の新たな危険性およびDNA修復の重要性を示すものだと思われます。
特記事項
本研究成果は、英国時間6月9日(月)10:00(日本時間9日(月)18:00)に英国科学雑誌「Scientific Reports (サイエンティフィック リポート)」オンライン速報版で公開されます。
参考図
カルボキシシトシンは、メチルシトシンの脱メチル化に関与することが示唆されているが、この脱メチル化がうまく機能しない場合、DNA損傷として細胞死を導くことがわかった。
参考URL
大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻機能物質化学領域 生体機能化学グループ
http://www.bio.chem.es.osaka-u.ac.jp/
用語説明
- エピジェネティック
エピジェネティクス:
DNAの塩基配列の変化を伴わずに遺伝子の発現を調節する仕組み
- カルボキシシトシン
C5位がカルボキシル基で置換されたシトシン塩基
- TETファミリー酸化酵素
DNA脱メチル化に関与した酸化酵素
- DNA合成反応
DNAポリメラーゼにより触媒されるDNA合成の反応
- ミスマッチDNA修復
塩基不対合を取り除くDNA修復機構