革新的な微粒子分析法の開発に成功。ベンチャー企業設立

革新的な微粒子分析法の開発に成功。ベンチャー企業設立

JST 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の研究開発成果を事業展開

2014-6-2

ポイント

・機能性粒子の品質や機能を評価するために、磁場を使った磁化率測定分析法を開発。
・磁化率測定は感度が高く、粒子表面の微小な変化をとらえることができる。
・製造工程における歩留まりの改善、品質の安定化の向上や新しい高機能粒子の開発に貢献。

リリース概要

JST(理事長 中村 道治)は産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進しています。

平成23年度より大阪大学に委託していた研究開発課題「世界初の微粒子磁化率計の装置開発と製品化」(起業研究員:河野 誠 大阪大学 産学連携本部 イノベーション部 特任研究員)で、ファンデーションやインク、トナーなどの機能性粒子の表面コーティングや成分のばらつきを、磁場を使って1粒子ごとに分析する方法と測定装置の開発に成功しました。また、この成果をもとに平成26年5月22日、メンバーらが出資して「株式会社カワノサイエンス」を設立しました。

機能性粒子全体の品質のバラつきや機能などを正確に評価するには、粒子ごとの機能を正確に測定する必要があります。従来の粒子分析法では、主に粒径などから機能を評価していましたが、同じ粒径でも成分が微妙に違うため、粒子が液体にどの程度馴染むかなどを評価することが難しく、熟練した技術者のカンに頼ることもありました。

今回研究者らは、磁化率 という原子ごとに固有の値を持つ物性値に着目しました。粒子もその原子組成に由来した固有の磁化率を持つため、粒子に磁場をかけて磁化率を測定することで、粒子に吸着した溶媒や、表面に施したコーティングなどを評価することに成功しました。また、この方法では、粒子ごとの成分均一性も評価できることから、粒子製品の製造工程において、粒子材料の投入段階から品質のばらつき検査に応用することで、歩留まりを改善したり、粒子素材の受入検査に用いることで、より均一性の高い材料を選別して品質の安定性を向上させることが可能となります。また、新たな粒子機能の解明や新素材、高機能粒子の開発などに寄与することが期待されます。

今後、受託解析事業から開始し、その後測定装置の販売を行う計画で、3年後に1億5千万円の売り上げを目指しています。測定対象は、金属粒子といった原料から、太陽光パネル材料などの中間材料、そしてファンデーション、食品添加物などの複合材料など、粒子原料から製品段階までの広い範囲で、研究開発や品質管理における革新的な分析ソリューションの提供を目指します。

開発の背景

ファンデーションやインク、トナーをはじめ、シャンプーなどを混ざりやすくさせるための分散剤など、私たちの生活のあらゆる場所に微粒子が使われています。このような機能性粒子の合成技術は日々進化し、複雑化していますが、粒子の機能を正確に測定できなければ粒子全体の品質のバラつきや機能の有効性を正確に評価できません。これまでの粒子評価は、主にレーザー散乱 や各種顕微鏡法による粒径によってのみ行われてきました。しかし、同じ粒径でも成分が違うことや、複雑な表面コーティングの厚み評価など、粒子にとって重要な機能面が評価できないことが課題とされてきました。近年では、ラマン顕微鏡やゼータ電位測定装置が利用されつつありますが、得られる情報は有益ですが測定に時間がかかること、また、ゼータ電位だけでは粒子組成情報が得られないなどの課題がありました (表1) 。

本研究開発課題では磁場を使った粒子評価法とその装置「MAIty」 によって、迅速かつ粒子表面や内部の組成情報が得られる分析法を開発しました。

研究開発の内容

河野誠特任研究員らは、最初に粒子磁化率の迅速な測定法の開発に取り組みました。粒子の磁化率を測定する方法として、粒子が磁場内にあったときに、粒子は磁気力によって動かされる(泳動される)際の速度から磁化率を計算する方法を採用しました。そして、この測定を自動化するため専用解析ソフトを開発し、粒子の泳動挙動の解析と磁化率と粒子径の計算まで自動化しました。この結果、迅速な測定が可能となり、粒子の機能性評価に重要な指標である「粒子細孔への溶媒侵入体積」、「表面積」、「表面コーティングの割合(表面被覆率)」、「表面濡れ性」、「成分の均一性」などを1粒子ごとに評価する技術にまで発展させました。

さらに、その成果をもとに、粒子の出荷時や製造過程でのロットぶれや受入検査、粒子開発時の粒子分散性や表面被覆率の評価などへの応用可能な技術へと進化させることに成功しました。

今後の事業展開

まずは、受託解析事業からスタートし、2年後を目途に測定装置の販売をスタートする計画で、3年後に受託解析と装置販売で1億5千万円の売り上げを目指しています。

受託解析事業では、磁化率測定を特徴としつつ、一般的な粒子分析法とも組み合わせながら顧客の要望に合わせた粒子分析を実施する計画です。また、受託解析から一歩踏み込み、独自の分析技術をもとに、顧客の新素材開発などにつながるソリューションを提供する総合コンサルティング事業をも視野に入れ取り組む予定です。

測定対象は、カーボンやシリカゲル、ゴム、樹脂、金属粒子といった原料から、太陽光パネル材料、電池材料、半導体材料など中間材料、そしてインク、トナー、ファンデーション、食品添加物など複合材料など、粒子原料から製品段階までの広い範囲で、研究開発や品質管理における革新的な分析ソリューションの提供を目指しています。

参考図

表1 磁化率による粒子評価法と他の分析手法の比較

製品例・実施例

図1 独自技術により開発した装置と解析ソフト
磁化率測定は感度が高く、粒子表面の微小な変化をとらえることが可能で、その応用により、表面官能基の違いを独自技術によって見出し官能基の修飾濃度の違いを検出して粒子開発上の指標として利用できた。

図2 HPLC充填剤粒子のロットぶれ検査例
クロマトグラムでのロットぶれ評価は粒子と充填の両方の要因を含んでいる。磁化率は粒子のみを評価でき、粒子と充填のどちらに問題があったのかを把握できた。

図3 分散剤の表面吸着度合の評価(磁化率によるファンデーションの比較例)
機能性粒子の分散性向上のため分散剤を使用したサンプルについて、分散剤の有無で磁化率分布を比較した。その結果、磁化率分布の変化から分散剤の吸着が確認され、その吸着量も求めることができた。

特記事項

今回の企業の設立は、以下の事業の研究開発成果によるものです。
研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 本格研究開発ステージ 若手起業家タイプ
研究開発課題:「世界初の微粒子磁化率計の装置開発と製品化」
起業研究員:河野 誠(大阪大学 産学連携本部イノベーション部 特任研究員)
研究開発期間:平成23年~平成26年

A-STEPは大学・公的研究機関などで生まれた研究成果をもとに、実用化を目指すための幅広い研究開発フェーズを対象とした技術移転支援制度です。今回の「株式会社カワノサイエンス」設立により、JSTの「プレベンチャー事業」、「大学発ベンチャー創出推進」、「若手研究者ベンチャー創出推進事業」およびA-STEPによって設立したベンチャー企業数は、127社となりました。

参考URL

研究成果最適展開支援プログラム A-STEP
http://www.jst.go.jp/a-step/
JSTプレスリリース
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20140602-2/

用語説明

磁化率

物質の磁石としての性能を表す物性値で、磁場に対してどれだけ磁化されるかを示す比例定数。

レーザー散乱

レーザーを粒子溶液に照射した際の散乱光から粒子径を測定する方法。

MAIty

微粒子磁化率計(MAIty):

粒子の磁気泳動から磁化率を求めるために最適化された顕微観察システムと、磁気泳動挙動から粒子磁化率と粒子径を自動的に解析するためのソフトウェアを兼ね備えた装置を<Magnetophoretic Analysis for Individual particle property, MAIty>と命名 (図2) 。