2014年5月13日

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の民谷栄一教授と青木航日本学術振興会特別研究員の研究グループは、生命科学研究における『還元的方法※1』と『構成的方法※2』を融合し、複雑な細胞システムを超高速に解析する新しい方法論『合成遺伝学(Integrated Synthetic Genetics)』の確立に成功しました。

生命科学研究において新しい概念に基づく方法論が提示されるのは、レーウェンフックによる近代生命科学の確立以降初めてのことであり、生命科学のさまざまな分野において研究が加速されると期待されます。

本成果は2014年4月17日に英国Nature Publishing GroupのScientific Reportsに掲載されました。

研究の背景

細胞の持つ複雑なシステムを解析するために、生命科学においては、『還元的方法』と『構成的方法』という2つの方法論が用いられてきました。『還元的方法』とは、そのままでは解析できない複雑な細胞システムに対し、その細胞システムに必要な部品(遺伝子)を個別に同定することで理解を深める探索的方法です(図1)。しかし、個々の部品(遺伝子)を調べるだけでは、全体を理解することは容易ではありません。そこで、『還元的方法』で同定された部品(遺伝子)を試験管の中で組み合わせ、細胞システムと同様のシステムの人工的再構成を試みる『構成的方法』が取られます(図2)。『還元的方法』と『構成的方法』を幾度も繰り返すことで、複雑な細胞システムの全体像を明らかにすることができますが、多くの労力と時間が必要とされます。

そこで、本研究では『還元的方法』と『構成的方法』を融合し、解析対象となる細胞システムに必要とされる部品(遺伝子)の探索と、システム全体の人工的再構成を一度に進められる方法論の開発を試みました(図3)。新たな概念に基づく本方法論を確立することで、生命科学研究を大幅に加速することが期待されます。

研究成果

本研究では、人工細胞※3を用いることで、解析対象となる細胞システムに必要とされる部品(遺伝子)を探索すると同時に、そのシステム全体を人工的に再構成する方法の確立に成功しました。人工細胞とは、細胞機能に必要な最小限の要素(遺伝子からタンパク質を合成するメカニズム)を内部に封入した細胞様コンパートメントであり、内部に遺伝子を導入すると、それに対応するタンパク質が合成されます(図4)。この人工細胞に、全遺伝子ライブラリから遺伝子をランダムに導入し、解析対象となる細胞システムの機能が発揮された場合のみに蛍光シグナルが観察される方法を構築しました(図5)。全遺伝子ライブラリを含む人工細胞を大量に作成すると、蛍光を持つ人工細胞が一定の割合で現れます。それぞれの人工細胞は必要とされる遺伝子以外にも多くの遺伝子を含みますが、次世代シーケンサーによる超並列ゲノム解析により、蛍光を持つ人工細胞に共通に存在する遺伝子を調べることで、簡単にターゲットとなる細胞システムに必要とされる遺伝子を決定できます。本実験では、LacZ遺伝子が存在すれば蛍光を発して人工細胞の色が変わるシステムを用いて実験を行った結果、超高速にLacZ遺伝子の探索とその機能的再構成に成功しました(図6)

生命科学において、還元的方法および構成的方法はそれぞれ遺伝学および合成生物学と呼ばれることから、本研究で提唱する新しい概念を、『合成遺伝学(Integrated Synthetic Genetics)』と名付けました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

さまざまな病気に対する薬を開発するためには、病気の原因を遺伝子レベルで解析し、病気の全体像を理解する必要がありますが、多くの年月が必要とされました。本研究成果は、病原因子の効率的同定を可能とし、新規薬剤開発までの期間を大幅に短縮できると期待されます。

特記事項

掲載論文情報:Integrating reductive and synthetic approaches in biology using man-made cell-like compartments. Wataru Aoki, Masato Saito, Ri-ichiroh Manabe, Hirotada Mori, Yoshinori Yamaguchi & Eiichi Tamiya, Scientific Reports, DOI:10.1038/srep04722 (April 17, 2014)
本リリースでは、DBCLSのCreative Commonsライセンスに基づいた画像を一部使用しています。

参考図

図1 還元的方法
複雑な対象を分解して部品(遺伝子)を同定する

図2 構成的方法
同定された部品(遺伝子)からシステムを人工的に再現する

図3 還元的方法と構成的方法の融合
全部品(4000個の遺伝子)を出発点として部品同定とシステム再構成を同時に行う

図4 人工細胞
遺伝子が機能するために必要最小限の要素が含まれる

図5 蛍光シグナル
細胞システムの機能が再構成された場合に蛍光シグナルが観察される

図6 超並列ゲノム解析
各蛍光人工細胞に含まれていた遺伝子が赤で示されている

用語説明

※1 還元的方法
複雑なシステムを構成要素に分解し、構成要素を詳しく調べることで理解を進める方法

※2 構成的方法
個々の構成要素をもとに、再構成実験やモデル化を行い、システム全体の理解を進める方法

※3 人工細胞
脂質二重膜の内部に生命の必須要素を封入することで人工的に作成された細胞様構造体

参考URL

大阪大学大学院工学研究科精密科学・応用物理学専攻応用物理学教室ナノバイオ領域 民谷研究室
http://dolphin.ap.eng.osaka-u.ac.jp/nanobio/

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