2014年4月7日

リリース概要

大阪大学大学院歯学研究科の和田孝一郎准教授、薬学研究科の水口裕之教授らのグループは、ハーバード大学などとの共同研究により、炎症性腸疾患の発症に密接に関連している粘膜免疫の自己制御機構を発見しました。抗原提示細胞によるCD1dを介したNKT細胞活性化はウイルスや細菌に対する自然免疫応答に重要ですが、過剰な免疫系の活性化は時として重篤な炎症を引き起こします。我々のグループは、ハーバード大学などとの共同研究により、腸粘膜上皮に存在するCD1dがヒートショックプロテイン110(HSP110)やインターロイキン10(IL-10)とともに免疫反応の過剰な活性化を抑制する“自己制御機構”を持つことを発見しました。この発見は炎症性腸疾患発症の原因の解明、およびその治療法の開発につながるものと考えられます。

研究の背景

クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患は難病に指定されており、より完全寛解をめざした治療法の確立が望まれています。しかしながら病態発症のメカニズムは完全に解明されていないのが現状です。今回我々が注目したCD1d分子は糖脂質抗原をNKT細胞に提示することでCD1d拘束性のNKT細胞活性化し、インターフェロンγやインターロイキン4産生を増強することが知られています。このCD1dによるNKT細胞の活性化が過剰に起こってしまうことが、炎症性腸疾患発症の原因のひとつではないかということが指摘されていました。しかしその一方で、このCD1dを完全になくしてしまうと、逆に腸炎が悪化することをこれまでの研究から見つけていました。そこで我々は、「CD1dを介した過剰炎症反応の自己抑制機構」が存在するはずであると考え、研究を進めてきました。すなわち、腸粘膜上皮に発現しているCD1dは、抑制的な働きをすることで粘膜免疫系を調節しているのではないかと考えました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、抗原提示細胞に発現しているCD1dはNKT細胞を活性化することにより炎症反応を促進するのに対して、腸粘膜上皮細胞に存在するCD1dはNKT細胞活性化を抑制し過剰な炎症反応が起こらないようにしている自己抑制機構の存在が明らかになりました。そのメカニズムとして、腸粘膜上皮細胞に発現するヒートショックプロテイン110(HSP110)、インターロイキン10(IL-10)、ミクロゾーマル・トリグリセライド・トランスファープロテイン(MTP)の3つの分子が重要な役割を果たしていることが解りました。このうち一つでも欠損させた(無くしてしまった)マウスでは、炎症反応の制御ができなくなり腸炎が悪化しました。腸粘膜上皮細胞において、これら3つの分子が協調的に働くことにより、CD1dを介した炎症反応を上手に制御していることが明らかになりました。実際の炎症性腸疾患の患者では、CD1dを介した炎症反応の制御がうまくいっていない可能性が示唆されており、腸炎患者の組織中の上皮細胞でのHSP110の発現は健常者に比べて低下していることも明らかになりました。この制御機構を患者さんでより詳細に調べることにより、病態発症の原因が明らかになるかもしれません。またこの知見をもとにした、より良い治療法の開発が進む可能性が期待されます。

特記事項

本研究成果は、イギリスの科学雑誌『Nature』(4月6日付け:現地ロンドン時間18時)にオンライン掲載されます('Protective mucosal immunity mediated by epithelial CD1d and IL-10' has been scheduled for Advance Online Publication (AOP) on http://www.nature.com/nature on 06 April 2014 at 1800 London time / 1300 US Eastern Time.)。

本研究は大阪大学、ハーバード大学、横浜市立大学、ケンブリッジ大学、ワシントン大学、コロンビア大学、京都大学などとの共同で行ったものです。

発表論文

“Protective mucosal immunity mediated by epithelial CD1d and IL-10”
Torsten Olszak, Joana F. Neves, C. Marie Dowds, Kristi Baker, Jonathan Glickman, Nicholas O. Davidson, Chyuan-Sheng Lin, Christian Jobin, Stephan Brand, Karl Sotlar, Koichiro Wada, Kazufumi Katayama, Atsushi Nakajima, Hiroyuki Mizuguchi, Kunito Kawasaki, Kazuhiro Nagata, Werner Muller, Scott B. Snapper, Stefan Schreiber, Arthur Kaser, Sebastian Zeissig, Richard S. Blumberg,

参考URL

和田孝一郎准教授(研究者総覧へリンク)
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/view?l=ja&u=8071&n=%E5%92%8C%E7%94%B0&kc=1&sm=name&sl=ja&sp=1

発表論文
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature13150.html

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