2014年2月13日

本研究成果のポイント

・本遺伝子多型はアジア固有のもので、今後アジア諸国に適応拡大していく中で重要な情報となる。
・抗体医薬に不応性を示す機序として標的分子の遺伝子多型が明確に示されたことは、今後抗体医薬の治療反応性を検討する上で、大変意義深い。

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(血液・腫瘍内科学教室)の西村純一助教らは、標的分子(補体第5成分)の遺伝子多型※1により、抗体医薬(ソリリス)に不応性を示す機序を解明しました。

研究の詳細

発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria: PNH)は、血球膜上の補体制御因子を欠くため、補体活性化に伴い血管内溶血を来します。PNHに対する溶血治療薬として、補体第5成分(C5)に対する抗体医薬(ソリリス)が開発され、これまで欧米を中心に顕著な抑制効果が示されて来ました。本邦では2010年に承認となり、300例を超す症例に投与されていますが、溶血が全く抑制されない不応例が報告されています(図1)。不応例11例のC5遺伝子を解析したところ、全例に共通のヘテロの変異※2(c.2654G>A)を同定しました(図2)。288例の健常人のうち10例に同変異を同定しました(保有率3.5%)。

さらに同変異は、中国人(漢民族)120例中1例に同定されていましたが、100例の英国人ならびに90例のメキシコ原住民には見いだせませんでした。この変異C5蛋白(p.Arg885His)を作成し機能解析を行ったところ、本来の機能である溶血活性は正常に保持されていましたが、その抗体であるソリリスは全く結合出来ませんでした。

以上より、本邦(アジア)固有のC5遺伝子多型により、その抗体医薬ソリリスに不応性を来している機序が明らかになりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ソリリスは欧米を中心に、PNHと非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)において承認され、顕著な有効性が示されています。さらに、視神経脊髄炎や重症筋無力症など補体関連疾患において適応拡大が期待されています。また、アジアにおいては本邦を中心に投与されていますが、今後韓国、中国など急速に普及していくことが予想され、不応性の原因となるアジア固有の遺伝子多型を同定したことは意義深いです。

現在、多くの抗体医薬が分子標的治療の主力として世界中で繁用されていますが、ソリリスは極めて効果が顕著な薬剤で、さらに今回のように全く効果が見られない不応例の報告も、耐性突然変異※3の出現例以外の報告はありません。このような状況下で、不応性の機序として遺伝子多型が証明されたことは、今後、抗体医薬の反応性を検証する上で大変意義深いです。

論文掲載情報

The New England Journal of Medicine (NEJM) 2014 Feb 13(米国東部時間)

参考図

20140213_2_fig1.jpg

図1 ソリリス投与によるLDHを指標にした溶血抑制効果

20140213_2_fig2.jpg

図2 ソリリス不応例に同定された遺伝子変異

用語解説

※1 遺伝子多型
遺伝子を構成しているDNAの配列の個体差であり、集団の1%以上の頻度であるものと定義されることが多い。同じDNAの配列の個体差でも変異mutationとは異なり、それだけで大きな表現型の変化や、病気を起こさないものを指す。

※2 ヘテロ変異
ヘテロ変異とは変異した遺伝子と普通(野生型)の遺伝子の両方を持つ場合で、ホモ変異は変異した遺伝子を二つ持つ場合を指す。

※3 耐性突然変異
薬剤に耐性を示すような変異を後天性に獲得すること。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 内科系臨床医学専攻 血液・腫瘍内科学
http://www.hematology.pro

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