2014年2月13日

本研究成果のポイント

・アルツハイマー病の原因と考えられている物質(Aβ)の分解を促進するタンパク質の機能を発見。
・アルツハイマー病などの疾患に対して、私たちの脳が自衛機能を有していることが明らかに。
・将来、新たな予防・治療薬の開発に向けて大きな一歩。

リリース概要

本学蛋白質研究所高木淳一教授のグループは、ドイツのマックスデルブリュック分子医学研究所と共同で、sorLA(ソーラ)という脳内の膜タンパク質が、アルツハイマー病などの神経変性疾患発症の原因と考えられているAβペプチド(アミロイドを形成するものの一種)の蓄積を防ぎ、アルツハイマー病に罹るリスクを軽減する役割を持つことを明らかにしました。この成果は我々の脳に神経変性疾患に対する自衛策がもともと備わっていることを示しただけでなく、アルツハイマー病の治療と予防のための新しい「作用点」を発見したものとして注目されます。

今後、何らかの方法で脳内のsorLAを増やすことができれば、アルツハイマー病になるリスクを低減することができる可能性があります。また、sorLAが持つ「掃除屋」としての機能の詳細な解明を通して、アルツハイマー病を含む神経変性疾患の発症の初期メカニズムの理解がさらに進むことも期待されます。

本成果は米科学誌「Science Translational Medicine」に2月12日付け(米東部時間2:00pm、日本時間13日4:00am)で掲載されました。

研究の背景と内容

アルツハイマー病発症の原因と考えられているアミロイドペプチド(Aβ)とは?

我々の脳内では加齢にともなって様々な「神経毒性」をもつ物質が蓄積し、その毒性によって死滅する神経細胞が多くなると脳の機能が減退し、認知症などの症状がでることになります。アルツハイマー病ではとくに、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるペプチドが長い年月をかけて凝集して脳内に特徴的な「老人斑」と呼ばれる構造体をつくり、その毒性によって神経細胞が死滅すると考えられています。

Aβは正常なタンパク質が切断されて生じるいわば「ゴミ」のようなもので、だれでも持っているものですが、なにかの理由でこの切断が多くなったり、切断されたAβが凝集しやすい性質をもっているとアルツハイマー病を発症しやすいことが知られています。アルツハイマー病の予防や治療には、この切断を制御したり、生じたAβが凝集しないようにすることが有効だと考えられ、世界中でそのような方法の開発にしのぎが削られていますが、未だにそのような方法や薬は見つかっていません。

「掃除屋」タンパク質sorLAとは?

アルツハイマー病の患者の遺伝子を調べると、発症していない人に比べていくつかの遺伝子にわずかの違いが見つかることがあります。sorLAの遺伝子にもそのような違いが見つかっており、また実際に患者の脳においてsorLAの量が健常人より少ないことも報告され、このタンパク質とアルツハイマー病発症のリスクに関連があることが示唆されていましたが、sorLAがどのようにアルツハイマー病発症やその重篤化に関わるのかは不明でした。

sorLAは神経ニューロンに存在する膜タンパク質で、コレステロールの細胞内への取り込みに関与するリポタンパク質受容体と近縁の膜タンパク質です。

蛋白質研究所の高木淳一教授らは、このsorLAタンパク質の立体構造を調べる過程で、偶然このタンパク質がAβを結合する性質があることを見つけました。そこで、ドイツのベルリンにあるマックスデルブリュック分医学研究所のThomas Willnow教授らと共同で、sorLAを通常よりたくさん持つように人工的に改変したマウスを用い、sorLAが増えると脳内に生じるAβの量(健常者でも一定の量存在します)が75%も減少することを明らかにしました。sorLAを培養細胞に発現させると、外から加えたAβを細胞が中に取り込んで、分解していく様子もとらえられました(図1)。

アルツハイマー病の中には、遺伝的要因により比較的早い時期に発症する「若年性(家族性)アルツハイマー病」というものがあり、いくつかの患者さんの家系で遺伝子が調べられていますが、ある家族で見つかった点突然変異がsorLAタンパク質の中にあることが昨年報告されました。非常に興味深いことに、この点突然変異をもつsorLAを細胞に発現させると、先ほどのAβを取り込み分解する活性が全くないことがわかりました。この結果は、この患者さんにおいてsorLAの機能が失われた結果アルツハイマー病を早期に発症することになったこと、つまり、sorLAは我々の脳が常に直面しているアルツハイマー病の危険に対して保護効果をもつことを示唆しています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

アルツハイマー病の予防と治療のためには脳内Aβレベルを下げることが有効であると考えられますが、現時点で有望な薬はまだ開発されていません。今回の結果は、我々の脳の中にはもともとAβのような「危険な」ペプチドを処理するためのメカニズムが存在することを明らかにしました。何らかの方法で脳内のsorLAを増やすことができれば、アルツハイマー病になるリスクを低減することができる可能性があります。また、sorLAが持つ「掃除屋」としての機能の詳細な解明を通して、アルツハイマー病を含む神経変性疾患の発症の初期メカニズムの理解がさらに進むことも期待されます。

参考図

図1 sorLAを発現する細胞のみがAβを 細胞内に取り込み分解していく様子

参考URL

発表論文
http://stm.sciencemag.org/content/6/223/223ra20

大阪大学 蛋白質研究所附属蛋白質解析先端研究センター 分子創製学研究室
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/rcsfp/synthesis/index.html

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