2013年12月26日

リリース概要

大阪大学基礎工学研究科の永井正也准教授、芦田昌明教授らの研究グループは、アイシン精機株式会社と共同で金属板を等間隔に並べただけでテラヘルツ周波数帯の電磁波の偏光を制御する技術を世界で初めて開発しました。これは位相板※1と呼ばれる現代の光技術に必須の基本素子ですが、テラヘルツ周波数領域で簡便に使える素子はこれまでありませんでした。本研究ではマイクロ波で用いられる導波路※2技術をテラヘルツ周波数領域に適用することで、金属板だけで構成された廉価な光学素子の構築に成功しました。この素子を用いることで、アイソレータなどの光波制御や高感度テラヘルツ光センシングへの貢献が期待されます。

本成果は、米国光学会誌「オプティクス・レターズ」に平成25年12月20日(現地時間)オンライン版で公開されました。

研究の背景

遠赤外線領域として分類される0.1~10テラヘルツ(1兆ヘルツ)の周波数帯の電磁波は、様々な物質において特異な透過特性を持っています。したがって物質分析や非破壊検査、安全安心分野におけるイメージングにおいてこの周波数帯の電磁波が注目されています。これに伴い光源や検出器、分光システムやイメージング技術が近年急速に発展し、現在では分光分析装置やカメラ等も市販されています。さらにこの周波数帯は超高速無線通信としても注目されています。

このように赤外領域での自由な光波制御技術は成熟したかのように思われますが、偏光を制御する技術はあまりありません。例えば光軸を変えることなく偏光を制御する受動素子として位相板があります(図1)。位相板は可視近赤外領域では水晶、プラスチック、半導体などで作られており、光エンコーダ、ディスプレーやプロジェクタ、DVDなど光学式記録装置のピックアップ素子など現在の光デバイスにおいて必須の素子です。しかし遠中赤外領域では透明な位相板の機能を生み出せる材料がないため、簡便に使える位相板はありません。

研究グループではマイクロ波領域の導波路技術をテラヘルツ周波数領域に拡張することで位相板が構築できることに注目しました。金属平行平板間に電磁波を入射すると、その偏光の向きによって伝搬する電磁波の位相の進み方が異なります。この位相変化がテラヘルツ周波数領域で最適になるように、化学エッチングによって周期的な開口を持つ金属板を整形し、等間隔に配置して素子を構築しました。このような単純な構造であっても周波数0.67テラヘルツから1.21テラヘルツの周波数帯で位相板として偏光が制御できることを実証しました(図2)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で得られた位相板は数10μm程度の周期的開口を持つ金属板を複数枚積層しただけの構成であるため、原理的には大面積でかつ低価格で作成することができます。また開口や平板間の距離を制御することによって設計周波数を中赤外領域まで変えることができます。このことからテラヘルツ周波数帯のアイソレータや偏光に敏感な高感度赤外光センシング、他の新しい赤外光利用の展開が生まれることが期待されます。

特記事項

本成果は大阪大学大学院基礎工学研究科の永井正也准教授、向井紀之氏(博士前期課程1年)、蓑輪陽介助教、芦田昌明教授およびアイシン精機株式会社の高柳順博士、大竹秀幸博士との共同研究によって行われ、米国光学会誌「オプティクス・レターズ」に平成25年12月20日(現地時間)オンライン版で公開されました。また本研究は、新学術領域研究「電磁メタマテリアル」およびJST産学共創基盤基礎研究プログラムの助成によりなされたものです。

参考図

図1 位相板による電磁波の偏光制御の概念図。
直線偏光の電磁波を位相板に入射すると、透過波の偏光が大きく変化する。下図は本研究において金属板だけで作成した位相板の写真。

図2 構築した位相板における遅相軸と速相軸の位相シフトの周波数依存性。
0.67テラヘルツから1.21テラヘルツの周波数帯で90°の位相差が5%以内の精度で生じていることから、4分の1波長板として機能する。

用語解説

※1 位相板
電磁波の直交する偏光成分に位相差をつける光学素子で、波長板とも呼ばれる。90度の位相差をつける素子を4分の1波長板またはλ/4板と呼び、直線偏光を円偏光や楕円偏光に、または円偏光を直線偏光に変換するのに用いられる。また180度の位相差をつける素子は半波長板またはλ/2板と呼ばれ、直線偏光の偏光方向を変えるのに用いられる。

※2 導波路
電磁波を伝搬させる伝送路。導波路中を伝搬する電磁波は、一般に入射波の偏光によって伝搬速度が異なるのが知られている。導波路は光領域では光ファイバーや誘電体シートの構造体を指すが、マイクロ波領域では金属導波管や誘電体基板表面に導体膜がつけられた平面導波路を指す。本成果で構築した素子は、複数の金属平板の間を電磁波が伝搬する平行平板導波路の集合体となっている。

参考URL

大阪大学 大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 未来物質領域 微小物質ダイナミクス講座
http://laser.mp.es.osaka-u.ac.jp/index.html

この研究に携わるには

Tag Cloud

back to top