2013年7月31日

リリース概要

アトピー性皮膚炎において汗は悪化因子の一つと考えられています。しかし汗はどのように症状の悪化にかかわるのか、これまでよく分かっていなかったためにその具体的な対策方法は不明なままでした。汗には体温調節や、病原体からの防御、皮膚に潤いを与えるといった大切な役割があります。もし汗が出なければどうなるでしょうか。皮膚は熱をもち、病原体に感染しやすくなり、乾燥してしまいます。これらの症状はアトピー性皮膚炎を悪化させると想像されます(図1)

実際、発汗刺激によって出てくる汗の量を調査した結果からアトピー性皮膚炎で汗の量が減少していることが確認されています。以上のことから、正しく発汗できる状態に導くこともアトピー性皮膚炎治療目標のゴールの一つとなります。そのためにはアトピー性皮膚炎で発汗低下の生じるメカニズムを解明する必要があります。

大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座(皮膚科学)室田浩之講師、松井佐起医員らの研究グループはアレルギー疾患の病態の主役として知られるヒスタミン※1が発汗を抑制することを、生体において汗と汗腺の動きを直接観察するという新しい試みで確認しました(図2)

本研究成果は、JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGYに掲載されました。

研究の背景

アトピー性皮膚炎において汗は悪化因子とされていますが、実際には発汗量は減少しており、たとえかいていると感じていても体温調節に必要な量が出ていないことが確認されています。その結果、皮膚は熱をもち、病原体への抵抗性を失い、乾燥することでアトピー性皮膚炎が悪化すると考えられます。これまで発汗機能低下の原因はよくわかっていませんでした。研究者らは、アレルギーに関わる因子が発汗に影響を与えると予想しました。その結果、アセチルコリン※2で実験的に誘発される発汗がヒスタミンによって抑制される現象を確認しました。光コヒーレンストモグラフィー※3による観察ではアセチルコリンを投与した際の皮膚内の汗管を通る汗を観察できますが、ヒスタミンを投与すると汗は出てこなくなります(図2)。このことから、ヒスタミンは汗腺に直接影響すると考えられました。研究グループは2光子顕微鏡※4を用いて汗腺の動きを観察した結果、ヒスタミンが汗腺に作用し、汗の分泌を障害することを確認しました(図2)。さらにこの現象はヒスタミンが汗腺分泌細胞のグリコーゲン合成酵素キナーゼ活性※5に影響を与える結果生じることを見出しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

発汗量は多すぎても少なすぎても皮膚に異常を生じるばかりか、体全体の健康を損ないます。発汗を調節できる物質の探索は発汗異常の診断や適切な治療に結びつくものと期待されます。本研究からアトピー性皮膚炎などアレルギー疾患で生じる発汗低下はヒスタミンが関与していると判明しました。これにより、アレルギー疾患のみならず、現在治療方法の確立していない様々な発汗異常症に対する新しい治療と診断方法の確立に広く貢献するものと期待されます。

参考図

図1 汗の役割とアトピー性皮膚炎への関与

図2 汗と汗腺の動きの可視化

用語解説

※1 ヒスタミン
アレルギーでみられる様々な症状を生じさせる代表的な因子。

※2 アセチルコリン
神経伝達物質で、発汗を生じさせる因子として知られる。

※3 光コヒーレンストモグラフィー
光の力を応用し、生体の組織内を観察する機器。

※4 2光子顕微鏡
組織を生きたままで観察できる顕微鏡。

※5 グリコーゲン合成酵素キナーゼ
細胞内のグリコーゲン(貯蔵多糖)の合成を調節する因子。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 情報統合医学 皮膚科学講座
http://derma.med.osaka-u.ac.jp/

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