2013年5月31日

リリース概要

大阪大学大学院理学研究科の田中博和助教、北倉左恵子研究員らとゲント大学(ベルギー)の Jiri Friml 博士らの研究チームは、植物の成長に重要な働きをする植物ホルモン「オーキシン※1」の流れを作るために、植物は細胞内の膜系に存在する2つの因子(BEN1 と BEN2)を利用している事を明らかにしました。また、このメカニズムは、根の形成パターンや葉脈のつながり方などのさまざまな発生過程を制御するのに使われている事が明らかになりました。今回の発見はオーキシンの輸送の方向性の制御を理解する上で極めて重要であると考えられます。

なお、本研究成果は2013年5月30日 (米国西部時間)に米国の生物学専門誌「PLOS GENETICS」のオンライン版で公開されます。

研究の背景

これまでの研究から、オーキシンの流れをつくるには PIN タンパク質※2が細胞膜に偏って局在する事が重要だと考えられています(図1)。また、植物の葉や根などの器官が作られる時には PIN タンパク質の偏る方向がダイナミックに変化することも最近の研究で分かってきています。この過程には、PIN タンパク質を細胞膜に運んだり、細胞膜から再び細胞内に取り込んで運んだりする、小胞輸送※3のメカニズムが関与していると想像できますが、このPINタンパク質の細胞内輸送に関しては不明な点が多く、詳細はよくわかっていませんでした。

研究の内容と成果

田中助教らはこれまでの研究により、特殊なスクリーニング法※4を用いて、PINタンパク質の細胞内での動きが異常になったシロイヌナズナの変異体(ben1※5とben2)を単離していました。今回の研究ではこれらの2つの変異体の解析を進め、ben1;ben2二重変異体では初期エンドソーム※6を介したPINタンパク質の動きが通常とは異なることを発見しました(図1)。

また、この二重変異体ではPINタンパク質の局在の偏りが減少し、それに伴い胚発生、根の形成、葉脈形成などのパターンが変化する事も分かりました(図2)。根の形成過程やオーキシンを加えた場合のPINタンパク質の偏りの変化を詳細に調べてみると、二重変異体ではPINタンパク質の局在変化が起きにくくなっていました。

このことは、BEN1、BEN2という因子が、根の形成時の位置情報やオーキシンなどのシグナルに応答したPINタンパク質の再配置に必要である事を示しています。

BEN2タンパク質は膜融合の制御に関わるSec1/Munc18 ファミリータンパク質 (AtVPS45)で、BEN1タンパク質と同じく、初期エンドソームに存在することが明らかになりました。BEN1とBEN2が初期エンドソーム (TGN/EE) を介した輸送に関わるということをあわせて考えると、PINタンパク質の再配置にはPINタンパク質を細胞内に取りこみ、細胞内輸送経路で選別して次の行き先に運ぶというしくみが働いていると考えられます。今回の発見は、PINタンパク質の偏った局在や刺激に応じた再配置には、初期エンドソームへの輸送が関わることを示した世界で初めての例です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

BEN2タンパク質が属するSec1/Munc18ファミリータンパク質は膜の融合に関わる因子で、AtVPS45/BEN2はこれまではトランスゴルジ網 (TGN) という細胞内小器官から液胞へのタンパク質輸送に関わると考えられていました。今回の研究結果からBEN2は初期エンドソームへの輸送と植物の細胞極性において、極めて重要な働きをしていることが明らかになりました。動物の VPS45 類似タンパク質もエンドサイトーシスと細胞極性に関わるものが知られていることから、VPS45が関わる小胞輸送の制御は多細胞生物の組織化に普遍的に関わっている可能性があります。

BEN1とBEN2が関わるタンパク質輸送システムは、植物の胚発生、器官形成、葉脈形成などの様々な発生過程に利用されており、これらの分子を調節することにより、オーキシンの輸送の方向性を人為的に制御して、植物の形を変化させることが可能になるかもしれません。今後、これらの分子の作用機構を探求することで、タンパク質の選択的輸送と細胞極性の研究の加速につながると期待されます。

特記事項

本研究は特定領域研究「植物メリステム」、若手研究(B)、ヒューマンフロンティアサイエンスプログラムの援助を受けて行われました。本研究成果は5月30日午後2時(米国西部時間)に米国生物学専門誌「PLOS Genetics」のオンライン版に掲載されます。

参考図

図1 BEN1とBEN2はPINタンパク質の細胞内輸送に関与している
(A) PIN タンパク質の働きによるオーキシンの輸送の模式図。PIN タンパク質が細胞膜で偏って分布し、オーキシンを排出することで組織の中でオーキシンが一方向的に輸送される(緑矢印)。
(B) 初期エンドソーム (TGN/EE) を介した輸送経路の阻害剤ES1を用いた実験。PIN2タンパク質を免疫染色により検出している。ben1変異体とben2変異体はES1に対する応答が野生型(WT)とは異なる。
(C) 細胞内のタンパク質輸送経路のモデル。BEN1は初期エンドソーム(TGN/EE)からの輸送、BEN2は初期エンドソーム(TGN/EE)への輸送に関わると考えられる。

図2 BEN1 と BEN2 は PIN タンパク質の局在と植物の発生に重要である
(A) ben1;ben2二重変異体は主根が短く、多数の側根を形成する。
(B) ben1;ben2二重変異体では側根原基での PIN1-GFPの局在が根の先端側に収束せずに、細胞の側面への局在が目立つ。二重変異体の側根原基は幅が広く、オーキシン応答性レポーター DR5::GFPの発現も幅が広くなっていた。
(C) 側根原基発生の模式図。野生型では PIN1は原基の先端方向にオーキシンを輸送すると考えられる。一方、ben1;ben2二重変異体ではオーキシンの輸送の方向性が乱れ、オーキシンの蓄積部位が定まらないと考えられる。

用語解説

※1 オーキシン
植物ホルモンのひとつであるオーキシンは植物体の中で方向性を持って流れているユニークな成長制御物質で、光や重力の方向に向かって植物が生長する屈性反応や、葉や根などの器官の形成などに関わっています。植物が光の方向に向かって生長するしくみを研究していたダーウィンが著書「植物の運動力」で動くシグナルとして記載した事でも有名です。

※2 PINタンパク質
オーキシンを細胞から運び出す働きがある膜タンパク質のひとつ。シロイヌナズナには類似のアミノ酸配列を持つPINタンパク質があり、PIN1、PIN2などと番号をつけて呼ばれる。PINタンパク質が細胞の片側の細胞膜に偏って存在すると、その細胞からは偏ってオーキシンがくみ出されると考えられています。PIN1やPIN2は維管束や表皮組織の細胞で局在の偏りがそろっていて、この仕組みによりオーキシンの輸送の方向性が決まっていると考えられています。PINタンパク質の量や、局在の方向性は器官形成や屈性反応の際に、ダイナミックに変化することも分かってきています。

※3 小胞の輸送
タンパク質や脂質などの物質が膜小胞を介してオルガネラやその他の細胞内区画、細胞膜の間で輸送されること。細胞膜から小胞が形成され、細胞内に取り込まれることをエンドサイトーシスと呼び、逆に細胞内から細胞膜へと小胞が輸送され融合する過程をエキソサイトーシスと呼びます。

※4 遺伝学的スクリーニング法
遺伝子機能を改変したことによりどのように表現型が変化するかを多数の遺伝子について調べることにより、ある生命現象に関わる未知の遺伝子を見つける方法。ben 変異体を単離するためには、緑色蛍光タンパク質 (GFP)と細胞内輸送の阻害剤ブレフェルディンA (BFA)を利用して、PIN1-GFP タンパク質の動きの異常を指標としたスクリーニングが行われました。

※5 ben1変異体
ARF GEF類似タンパク質をコードする遺伝子に変異が入った変異体。AEF GEFは低分子Gタンパク質である ARFに作用し、GDP 結合型の ARF を GTP 結合型に変換するグアニンヌクレオチド交換因子。ARF による細胞内輸送経路(特に小胞の出芽)を活性化する因子であると考えられています。

※6 初期エンドソーム
高等植物の細胞の中には膜で囲まれたオルガネラやさまざまな区画(コンパートメント)があり、それぞれのコンパートメントは、物質代謝やタンパク質の選択的な輸送などの固有の役割を持っています。細胞の外にある物質や、細胞膜の成分が細胞内に取り込まれた時に、初期に到達するコンパートメントが初期エンドソームと呼ばれる。初期エンドソームは物質を選別し、次の行き先に送る働きがあると考えられています。最近の研究により、シロイヌナズナではトランスゴルジ網 (TGN) と同一と考えられるようになったため、TGN/EE とも呼ばれます。

参考URL

http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/cell_physiol/sitepg/Kakimoto_Lab/homu.html

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