2013年4月9日

リリース概要

ビタミンDが「骨を強くする」ということは大昔から知られていましたが、この具体的な作用機構については意外とこれまで明らかにされていませんでした。特に、大きな謎とされていたのは、ビタミンDがin vitro(培養容器内)の実験系では骨を壊す破骨細胞を増やす(=骨破壊を促す)ように作用することでした。

大阪大学生命機能研究科/医学系研究科/免疫学フロンティア研究センターの菊田順一助教と石井優教授らの研究グループは、これまで独自に立ち上げてきた骨組織のライブイメージング系を活用して、ビタミンDが「破骨細胞を骨に近づけないようにして血管へ引き戻す」ことで骨破壊を抑制していることを初めて明らかにしました。今回の研究成果によって、骨粗鬆症など骨疾患の治療により効果的な骨破壊抑制薬の開発につながることが強く期待されます。

研究の背景

全国民の4人に1人が65歳以上の超高齢社会を迎えている日本では、加齢に伴う骨粗鬆症の患者数増加が大きな社会問題となっています。ビタミンDが骨破壊を抑制して骨を強くすることは以前から知られており、実際に活性型ビタミンD製剤は骨粗鬆症の治療薬として今日でも汎用されています。しかしながら、ビタミンDがどうやって骨破壊を抑制しているのかについては、これまでの骨研究の手法では十分に解明されてきませんでした。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究グループはこれまで、骨組織の内部を生きたままイメージングすることで、破骨細胞の動きを捉えるという、世界的にも独自の研究手法を立ち上げてきましたが、今回この手法を用いて解析することで、ビタミンDが骨を壊す破骨細胞を骨に引き寄せる受容体の発現を減らして、骨に近づけないようにして骨破壊を抑制していることが初めて分かりました。こういった作用の様式が分かることで、骨疾患の治療により効果的な骨破壊抑制薬の開発につながることが強く期待されます。

 

特記事項

本成果は、2013年4月8日の午後3時(アメリカ東部時間)に米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に掲載されます。また、内閣府/日本学術振興会・最先端研究開発支援プログラムの支援を受けて行われました。

 

研究の詳細

研究の背景

ビタミンDは生物活性を有する代表的な脂溶性ビタミンであり、腸や腎臓においてカルシウム輸送体の発現を調節することで生体内でのカルシウム濃度調節に関与している。その一方で、ビタミンDは骨に作用し、骨破壊を抑えることで「骨を強くする(=骨密度を増加させる)」ことが昔から知られていた。実際に、活性型ビタミンD製剤は本邦でも骨粗鬆症の治療薬として汎用されてきており、その有効性が証明されてきた。しかしながら、このビタミンDによる骨破壊抑制作用のメカニズムの詳細、すなわち「ビタミンDがなぜ骨破壊を抑制するのか」ということについては長い間不明のままであった。特に、大きな謎とされてきたことは、in vitro(培養容器内)の実験系では、ビタミンDは骨を破壊する能力をもつ破骨細胞をさらに増やす(=骨破壊を促す)ように作用することが知られており、in vivo(生体内)との実験系の違いの中に、謎を解く鍵があると考えられていた。

In vitro(培養容器内)とin vivo(生体内)の間には様々な違いがあるが、中でも大きな違いとして「細胞の動きと数の違い」が挙げられる。In vitroの系では、実験者がある一定数の細胞を培養容器に入れて観察するため、細胞の動きは見られないし、新たな細胞が入ってきたり、逆に出て行ったりすることもない。しかし、in vivo(生体内)で血流が保たれている環境では、常に細胞が出入りしている。これはin vitroの系との決定的な違いである。

本研究グループは、これまでに特殊な顕微鏡を用いることで、骨組織内を生きたままで(in vivoで)イメージングすることに世界に先駆けて成功し、これを用いて破骨細胞が骨破壊部位に来たり、逆に出ていったりする様子をリアルタイムに解析してきた(Nature 2009; J Exp Med 2010; J Clin Invest 2013, etc)。特に、血液を流れているマクロファージから分化する破骨細胞が、血中から骨に引き寄せられる過程が、スフィンゴシン1リン酸(S1P)という物質によって制御されていることを明らかにしてきた。S1Pは血中に多く存在するが、破骨細胞はS1Pに対する2つの異なる種類の受容体を持っている。それは、S1Pに近づくように(=血管の方に)進むための「1型受容体(S1PR1)」と、逆にS1Pから遠ざかるように(=骨の方に)進む「2型受容体(S1PR2)」である。破骨細胞はこの2つの受容体を、車のアクセルとブレーキのようにうまく使い分けて動いていることが、生体イメージング系で明らかにされてきた。

ビタミンDはS1PR2の発現を減らすことで、破骨細胞を骨から血管へ戻している

本研究グループは、ビタミンDがこの破骨細胞の「動き」の制御に関わっているかもしれないという仮説を立てて、以下の実験を行った。まず、ビタミンDで処理した破骨細胞と、通常の状態の破骨細胞で、S1P(血管内に多く存在)に対する細胞遊走を、特殊な培養装置を用いて測定した。この結果、ビタミンDで処理した破骨細胞は、S1Pの方向に対してよく進むことが分かった。即ち、ビタミンDは破骨細胞を血管の方向へ動かしやすいということが明らかとなった。

次に、どのようにしてビタミンDがこうした作用を発揮するかを調べるために、破骨細胞の動きを調節しているS1Pの受容体(1型や2型)の発現を調べた。その結果、ビタミンD投与によって、破骨細胞を骨側に引き寄せる2型受容体(S1PR2)が少なくなることが明らかとなった(下図)。一方で、S1Pの1型受容体や、その他の細胞遊走関連受容体の発現はいずれも変化がなかった。つまり、ビタミンDは破骨細胞に作用して、破骨細胞が骨に近づくための受容体(S1PR2)を減らすことにより、骨から遠ざける(=血管側へ移動させる)ということが明らかになった。これはビタミンDの作用としては、これまで全く明らかにされてこなかった新しいメカニズムである。

ビタミンDで治療中の骨の中の破骨細胞は、確かにS1PR2が減っている

すでに述べたように、ビタミンDは骨粗鬆症の治療薬として、臨床的にもすでによく使用されている。次に、実際にビタミンDで治療中の骨の中で、本当にこういったことが起こっているのかについて解析を行った。骨粗鬆症を人為的に誘導したマウス(OVX)に、天然の活性型ビタミンD(1.25D)や、現在の臨床現場でよく使用されている最新の活性型ビタミンD誘導体(ELD)を投与すると、骨密度が回復している様子が観察される(下図A,B)。この状態で骨組織から破骨細胞を取り出してきて、そのS1PR2の量を測定してみると、確かに天然型・誘導型のビタミンDのいずれの場合でも、S1PR2の発現が有意に低下していることが分かった(下図C)。これらのことから、ビタミンDで治療して骨破壊が抑えられている骨の内部では、確かに破骨細胞を骨に引き寄せる受容体であるS1PR2の発現が低下していることが証明された。

図 ビタミンDによる骨粗鬆症マウスの治療実験。
Shamは対象群(骨粗鬆症を誘導しないもの),OVXが骨粗鬆症を誘導したもの,BMDは骨密度を示す。Vehicleは薬剤未投与群,1.25Dが天然型の活性型ビタミンD,ELD(エルデカルシトール)が臨床現場で用いられているビタミンD誘導体をそれぞれ投与したもの。

 

ビタミンDで治療中の骨の中では、確かに破骨細胞が血管の方に動いて行っている

それでは最後に、ビタミンDで治療中の骨の中では、破骨細胞の動きがどのようになっているのか、本研究グループが得意とする骨組織内のライブイメージング系を活用して解析を行った。その結果、これまでの結果と相関するように、確かにビタミンD(天然型の1.25Dと臨床で使用される誘導体のELDの双方とも)で治療した状態の骨の内部では、破骨細胞の動きが大きくなっており、骨から血中へと流れ出ている様子が観察された。

これらの結果を総合すると、ビタミンDは破骨細胞を骨に引き寄せる受容体であるS1PR2を減らすことにより、破骨細胞を骨から遠ざけることで骨破壊を抑制していることが明らかとなった。これは、これまで長年にわたって謎であったビタミンDの骨破壊抑制作用のメカニズムを具体的に明らかにした初めての研究成果であり、医療的にも大きなインパクトがあるものと考える。古くからある治療法・生体現象を、イメージングを含めた最新の研究技術で謎解きを行った本研究は、生物学における温故知新の一つの姿であり、今後のライフサイエンス研究においても重要な方向性を提起するものであると確信する。

日常診療で頻用され、有効性も十分に確立している薬剤でも、意外とその作用機序が明らかとなっていないものは相当数に上る。ビタミンDもその典型であり、大昔から「骨を強くする」と漠然と信じられていたものの、その具体的な作用は長い間不明であった。特に、in vitroの培養系ではビタミンDが破骨細胞の数を増やして、骨を壊す側へ働くことが知られており、大きな矛盾とされてきた。これが、ビタミンDが日本に比べて欧米では骨疾患治療薬としてあまり普及していない大きな理由の一つである(欧米では薬物の作用機序の解明がより強く求められる傾向にある)。今回の発見により、ビタミンDの薬効が明らかになったことで、より「安心して」ビタミンD製剤を臨床現場で使用していくことが可能になった他、より有効性の高い活性型ビタミンD製剤、もしくはその誘導体の開発につなげることが強く期待される。

 

発表論文

"S1P-mediated osteoclast precursor monocyte migration is a critical point of control in anti-bone-resorptive actions of active vitamin D "

(活性型ビタミンDはS1Pによる破骨細胞の運動制御機構を調節することにより骨破壊を抑制する)

雑誌:米国科学アカデミー紀要(PNAS)

 

参考URL

http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/2013/04/20130409-pnas.php

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