2013年4月8日

リリース概要

大阪大学理学研究科の髙田忍助教、髙田希研究員、吉田彩香大学院生の研究グループは、植物の表皮を作る能力を持つ遺伝子を明らかにしました。本研究の成果により、陸上の植物の進化の過程や、植物が気孔やクチクラ※1を持つ表皮を作るしくみの解明が期待されます。

なお、本研究成果は2013年3月20日 (英国時間)に英国の発生学専門誌「Development」のオンライン速報版で公開されています。

 

研究の背景

植物は様々な役割を持つ細胞が集まり形作られています(図1)。例えば表皮は、植物の表面につくられる細胞組織で、通常、陸上植物の茎や葉の表皮は、クチクラと呼ばれる層に覆われており、これにより植物を乾燥や病原菌の感染から守っています。また、表皮には毛状突起と呼ばれる、毛のような形をした特殊な細胞があり、これも食害や乾燥などから植物を守る働きがあると考えられています。

他にも表皮には、光合成のために外から二酸化炭素を取り込む、気孔と呼ばれる小さな孔があります。この孔の両端には、気孔を開いたり閉じたりすることができる「孔辺細胞」と呼ばれる特殊な細胞があります。このように、表皮は植物を外界から守ることに特化した細胞の集まりであると言えます。

一方で、葉の表皮より内側にある細胞についてですが、これは緑色をしており、「葉肉細胞」と呼ばれています。この葉肉細胞は葉緑体を持ち、光合成によって糖を作る役割があります。

このようにそれぞれ違った役割を持つ細胞ですが、表皮細胞や葉肉細胞などの違ったタイプの細胞を生み出すメカニズムについては、これまでほとんど分かっておらず、特に、表皮や葉肉細胞を分化※2させる能力を持つ遺伝子は知られていませんでした。

 

研究の内容と成果

今回の研究にあたって、アブラナ科の植物であるシロイヌナズナのATML1という遺伝子に注目しました。

ATML1は1996年に最初に報告された遺伝子で、表皮でのみ転写※3されることから、表皮の形成に関わっていると考えられていました(図2)。今回、研究グループでは、このATML1に表皮を作る能力があるかどうかを調べるために、ATML1遺伝子が植物の全ての細胞で働くように改変した遺伝子組み換えシロイヌナズナを作りました(図3)。すると、この植物では驚くべきことに本来、葉肉細胞が作られるべき内側の組織に、気孔や毛状突起の特徴を持つ細胞が作られたのです(図3)。

葉肉細胞の分化は阻害され、一部が透き通った葉が作られました(図4)。この遺伝子組み換え植物では、表皮で働く複数の遺伝子の転写量が上昇していることも示されました。

これらのことから、ATML1は表皮以外の細胞を表皮に分化させる能力を持つことが証明されました。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

再生医療の必要性から、最近では動物のiPS細胞や通常の体細胞から任意の種類の細胞をつくる技術が注目されています。植物の場合、葉や根などからも個体の再生が可能であることから、動物と比べると高い分化全能性※4を持っていると考えられています。しかし、植物においても未分化な細胞から思い通りの細胞を作り出すのは容易ではありません。

本研究は、遺伝子を用いることで、植物の表皮以外の細胞から、表皮の性質を持つ細胞を作り出した世界で初めての例となります。任意の細胞を、特定のタイプの細胞に変化させる能力のある遺伝子を「マスター遺伝子」と呼びますが、植物では、細胞の分化方向を決めるマスター遺伝子がほとんど見つかっていません。ATML1は単独で植物の表皮分化を決定づけられる遺伝子であり、マスター遺伝子として働く可能性が高いと考えられます(図5)。

陸上植物の祖先は最初、海の中で生活していたと考えられています。約5億年前に陸上へ進出した植物はクチクラ層を獲得しました。クチクラは水を通さないので、植物を乾燥から守ることができます。ATML1遺伝子は、クチクラ合成に関わるいくつかの遺伝子の転写を促進することも分かっています(図5)。今後、ATML1遺伝子の働きを詳しく調べることで、陸上植物が進化の過程でクチクラや気孔を持つ表皮を獲得したしくみを解明していくことが期待されます。

 

特記事項

本研究は、文部科学省科学研究費のサポートを受けておこないました。本研究成果は2013年3月20日 (英国時間)に英国の発生学専門誌「Development」のオンライン速報版で公開されました。

 

参考図

図1 シロイヌナズナの葉の構造
植物の表皮は透明な一層の細胞層からなる。とげのような毛状突起や、一対の孔辺細胞からなる気孔(▲)が特徴的である。内側に位置する緑色の葉肉組織は葉緑体を持ち、光合成をおこなう。維管束組織は水や栄養分を運ぶ働きがある。

図2 ATML1が転写される細胞と、シロイヌナズナの表皮分化
上の模式図で、一番外側に位置するピンク色で示した細胞が将来表皮へと分化する細胞である。下の写真は、ATML1遺伝子が転写される細胞を緑色に光るタンパク質(GFP)で可視化したものである。ATML1遺伝子は、将来表皮へと分化する一番外側に位置する細胞で転写されていることがわかる。

図3 ATML1が植物体全体で働くと葉の内側にも表皮細胞が作られる
葉をうすくスライスして断面を観察した(上側三つの写真は青色の色素で、下側二つの写真は赤色の色素で染色してある)。左側が正常な植物で、右側がATML1を植物体全体で働かせた遺伝子組み換え植物である。ATML1を植物体全体で働かせると、葉の内側でも表皮の性質を持つ細胞(気孔や毛状突起)が作られた。

図4 ATML1を葉の内側で働かせると葉肉細胞が減少した
上が正常な植物の葉で、下がATML1を植物体全体で働かせた遺伝子組み換え植物の葉である。それぞれ、葉をスライスして葉肉細胞を観察した。ATML1を植物体全体で働かせると、緑色の葉肉細胞が減少し、透き通った葉が作られた。

図5 予想されるATML1の働き
ATML1は表皮の形成/機能に必要な複数の遺伝子の転写を活性化していると予想できる。

 

用語解説

※1 クチクラ
蝋や不飽和脂肪酸から作られる疎水性の層。植物の葉や茎の表皮の外側を覆う。水を通さないので植物を乾燥から守ることができる。表皮細胞によって作られる。

※2 分化
細胞がその性質や構造を変化させて、決まった役割を持つ細胞に変わること。初期の発生では、細胞の多くは特徴がなく均一で「未分化」だが、成長するにつれて各細胞は決まった役割を持つ細胞に分化する。

※3 転写
mRNAの合成。DNA上にある遺伝子の多くは、mRNAに転写され、さらにそのmRNAからタンパク質が合成(翻訳)されてはたらく。それぞれの遺伝子ごとにmRNAが転写される細胞は厳密に決まっている。例えば表皮やクチクラを作る遺伝子は将来表皮に分化する細胞(植物の最外層に位置する細胞)のみで転写されることが多い。

※4 分化全能性
どの細胞にも分化できる能力。動物では、生殖に関係する細胞(卵、精子、受精卵)は分化全能性をもつが、その他の、体を構成する細胞(体細胞)は分化全能性を失っている。それに対して、植物の場合は、成長した個体の体細胞でも分化全能性を保っている例が報告されている。

 

参考URL

http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/~shinobu_takada/index.html

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top