マラリア感染に対する免疫反応強化の仕組みを解明

マラリア感染に対する免疫反応強化の仕組みを解明

“リポカリン2”が マラリア治療の鍵を握る

2012-11-19

リリース概要

大阪大学 免疫学フロンティア研究センターのジェヴァイア・チョバン(Cevayir Coban) 准教授らの研究グループは、マラリア感染において、リポカリン2 (Lipocalin 2) という物質が宿主側に加担し、免疫反応を強化する重要な役割を担っていることを発見しました。

本研究成果の意義、社会に与える影響

世界で年間3億人以上が感染し、およそ200万人が命を落とすとされるマラリアの病原体は単細胞生物であるマラリア原虫であり、鉄を多く含む赤血球に感染し、増殖します。感染赤血球はしばらくすると破裂し、原虫とともに多くの鉄分を放出し、その結果、宿主は鉄代謝の異常をきたし貧血を起こします。 マラリア原虫の生存には多くの鉄が必要だと知られていますが、宿主の鉄代謝のシステムやその影響を受けやすい免疫システムとの生体レベルでの相互作用はあまり解明されていませんでした。

チョバン准教授らのグループは、マラリア感染時に誘導される蛋白のなかでも、「リポカリン2」という分子に注目しました。リポカリン2はヒト三日熱マラリア原虫感染時、マウスマラリア感染時のどちらにおいても多く分泌され、その赤血球期の原虫量をコントロール(抑制)していることがわかりました。

今回明らかになった具体的な点として、リポカリン2は
1) マラリア感染時における宿主自然免疫反応に重要な役割を担うマクロファージや好中球の鉄代謝を上げ、その原虫の貪食や活性酸素などの作用を含む抗原虫効果を高めている。
2) 宿主の鉄代謝を維持する能力を上げることにより、マラリア原虫が好んで感染する赤血球赤芽球や未熟な赤血球の発現頻度を減らす。
3) 宿主鉄代謝の維持により、マラリア原虫に対する獲得免疫(抗原特異的B細胞)の減弱を防ぐ。

さらに上記のリポカリン2による抗マラリア感染効果は、リポカリン2の組み換え蛋白をリポカリン2欠損マウスに投与することで再現されました。

これらの結果から、リポカリン2はマラリア感染時における宿主鉄代謝の維持に必須であり、マラリア原虫に対する免疫反応や結果として生体防御に重要な役割を担うことが示唆されます。

本研究成果は、今後のマラリア治療につながる重要な結果であると期待されます。

論文名

掲載誌: Cell Host & Microbe (2012年11月18日付: 日本時間 11月19日午前4時オンライン)
URL: http://www.cell.com/cell-host-microbe/
論文タイトル: Lipocalin 2, a career of iron, bolsters the immune system to combat better against malaria infection. (マラリア感染においてリポカリン2は、宿主とマラリア原虫の鉄を保持して宿主側に加担し免疫反応を強化する)

参考図


図1 マラリア感染回復期の脾臓(真ん中の丸い領域は白脾髄)

緑=Gr-1陽性好中球、赤=リポカリン2 黒=ヘモゾイン


図2 本論文のまとめ

参考URL