雄性不妊モデルマウスの開発

雄性不妊モデルマウスの開発

受精メカニズム解明のみならず、新たな治療・診断薬や 避妊薬の開発に繋がる先駆的な研究成果

2012-2-14

<リリース概要>

大阪大学微生物病研究所・感染動物実験施設(伊川正人准教授)では、同遺伝子機能解析分野(岡部勝教授)との共同研究により、精細胞特異的なプロテイン ジスルフィド イソメラーゼ(PDILT)を欠損したマウスは精子の受精能力が欠乏して雄性不妊となることを明らかにしました。

蛋白質の高次構造を形成するために必要なS-S結合を触媒するPDI酵素(プロテイン ジスルフィド イソメラーゼ)は約20種類存在しますが、精巣特異的な因子としてPDILTが報告されています。今回我々は、遺伝子操作によりPDILTを欠損したマウスを作製したところ、雄性不妊となることを見出しました。PDILTは、精子の受精タンパク質ADAM3(アダムとイブに因んで名づけられた因子の一つ)の高次構造を形成するのに必須であり、PDILTを欠損したマウスの精子からはADAM3が消失しました。ADAM3を失った精子の運動性は正常であるにも関わらず、精子が子宮から卵管に上れないために受精できませんでした(遺伝子操作により蛍光を発する精子として観察)。そこで精子を人工的に卵管に注入したところ、受精・妊娠・分娩に至り不妊治療効果を認めました。(図1)
我々の開発したモデル動物は受精メカニズム解明のみならず、新たな治療・診断薬や避妊薬の開発に繋がる先駆的な研究成果であります。本研究成果は「米国科学アカデミー紀要 (Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(電子版)に、掲載されます。

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図1:PDITL欠損マウスは雄性不妊

A) 野生型の雌マウスと交配させたところ、PDILTを欠損する雄マウスは交尾するにも関わらず不妊であった。
B) 子宮・卵管内での精子を観察するために、遺伝子操作により頭部が緑色、尾部が赤 色の蛍光を発する精子を作らせた。
C) AとBのマウスを組み合わせて観察したところ、PDILTを欠損するマウス精子は子宮から卵管に移動できなかった。
D) そこでPDILTを欠損するマウス精子を卵管に直接、入れる治療法を試みた。
E) その結果、PDILTを欠損するマウス精子もADAM3を欠損するマウス精子も、殆ど正常に受精した。
F) さらに受精した後、着床・妊娠を経て、出産することも確認できた。

<参考URL>