2020年2月25日

免疫を抑える制御性T細胞を増やしたり新たに作ったりすれば、自己免疫病やアレルギーの治療・予防につながる。逆に、制御性T細胞を減らして免疫反応を高めれば、がんや感染症を治療できる可能性がある。坂口教授は「最近はこの二つの方向で、人の病気を本当に治せるか、という研究を重点的に進めてきた」と話す。

反対の性質に寝返らせる薬剤

制御性T細胞を増やす治療としては、血液から取りだして体外で増やし、再び戻す方法が考えられる。さらに坂口教授らは最近、一般的な抗原特異的なリンパ球に薬剤を作用させ、制御性T細胞に転換する実験に成功した。しかも、安定的に転換したままにできたという。この薬剤はどんな治療を可能にするのか。「自己免疫病の患者の体内には自分自身を攻撃するリンパ球がある。これを制御性T細胞に転換すれば、“理想的”な免疫抑制になる」と坂口教授。
理想的というのは、免疫全体を抑えて感染症の危険を増やす恐れを避けられるためだ。坂口教授は「悪者(リンパ球)を減らせるだけでなく、反対の機能を持つように寝返らせれば警察官のようにできる」と例える。この仕組みは、自己免疫病を起こすリンパ球がどの抗原を認識しているか明らかでなくても適用できるが、まずは抗原が分かっている典型的な自己免疫病で3年以内をめどに臨床試験を始めたいとしている。抗原にさらされる例として、分かりやすい身近なものをいえば、花粉症がイメージしやすい。例えば、花粉が増える頃にだけ薬剤を短期間飲めば、花粉に反応するリンパ球が制御性T細胞に転換し、アレルギー反応を抑えられる可能性がある。この他にも、臓器や細胞の移植後の拒絶反応を抑えるなど、さまざまな応用が考えられる。

減らして免疫力アップ

一方、制御性T細胞を減らす方向のがん治療に関しては「制御性T細胞を攻撃する抗体の開発。さらに、口から飲める薬ならがんの免疫療法が世界的にもっと広がるので、そういう薬の研究」を行っている。がん組織の中にはリンパ球が入り込んでいる。以前は、この状況を「リンパ球ががん細胞を攻撃している」と考えられていたが、実はそうではなかった。そのリンパ球は制御性T細胞で、免疫反応を抑えている実態が明らかになった。制御性T細胞が多いと予後が悪いという関係も判明し、制御性T細胞をターゲットにした治療薬の開発に期待がかかる。
坂口教授が候補の一つに考えたのが、慢性骨髄性白血病の治療薬「イマチニブ」だ。坂口教授らは、この薬が白血病細胞だけでなく制御性T細胞も攻撃すると明らかにし、昨年秋に論文発表した。この薬は長年使われ、副作用についてもよく分かっている上に既にジェネリックになっていてコストも安い。白血病以外のがんにも効くかどうか調べるため、臨床試験を考えているという。この他、がん組織に入り込んだ制御性T細胞だけを消す抗体の作製も目標にしている。
治療法以外にも、以前から続ける制御性T細胞の機能について基礎的な研究も進める。「自己免疫病などの免疫疾患に関係するさまざまなSNP(スニップ、1塩基多型)のうち、どれだけが制御性T細胞の発生や機能に関わるか調べている」と説明する。

サイエンスはフェアな世界

坂口教授は過去、自説が他の研究者になかなか受け入れられない時期を過ごした。基礎研究に進む学生が減る今、「サイエンスはフェアな世界。いいものはいいと認められ、客観的に評価される」と話し、免疫学についても「サイエンスとしての面白さに加え、社会から期待される二つの面があり、モチベーションを保ちやすい学問領域」と勧める。

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●坂口 志文(さかぐち しもん)
1976年京都大医学部卒業。77年愛知県がんセンター研究所研究生、83年医学博士(京都大)。米スタンフォード大研究員や米カリフォルニア大サンディエゴ校助教授などを務めた後、99年京都大再生医科学研究所教授。2011年から大阪大免疫学フロンティア研究センター教授。16年から現職。17年栄誉教授。19年に文化勲章を受章した。

(本記事の内容は、2020年2月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

 

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