2019年5月9日

未来の攻撃に備える記憶B細胞

体内に病原体(抗原)が侵入すると、脾臓やリンパ節に「胚中心」と呼ばれる構造ができ、B細胞はここで増殖・分化する。B細胞の一部は、プラズマ細胞へと分化して抗体をつくり、抗体が抗原と結びつくことで病原体を無害化する。その一方で、別の一部のB細胞は記憶B細胞となり、体内に長く留まって同じ病原体による未来の攻撃に備えるのだ。
井上特任准教授は「抗原と抗体はカギ穴とカギに例えられ、特定の形を持つもの同士が特異的に結び付く。抗原のカギ穴を覚えておけば次に攻撃を受けたとき素早く相手を倒せます」と説明する。しかも胚中心では抗原の遺伝子にランダムな突然変異が生じることが知られている。少しずつ違う型のスペアキーをたくさん用意するようなものだ。

良質なワクチン開発に期待

記憶B細胞をうまく制御できれば良質なワクチン製造につながる。だが記憶B細胞産生メカニズムが、これまで良く分かっていなかった。そこで、井上特任准教授はどのタンパク質が、B細胞の増殖・分化過程でどんな役割を果たしているのかを、遺伝子改変マウスを使った実験で解明することに取り組んだ。 
そのためにはB細胞でだけ、しかも胚中心など特定の場所、特定の時期でだけタンパク質の働きを抑えるマウスが必要だ。「何種類もの遺伝子改変マウスを何度も交配させて、狙い通り特定のタンパク質を無効化できるマウスをつくる。1世代の交配に3カ月、準備だけで1年くらい過ぎてしまいます。研究に専念できるIFReC(免疫学フロンティア研究センター)だからこそできた研究ですね」。気の遠くなるような作業の結果、狙い通りのマウスをつくることに成功。Foxo1というタンパク質が胚中心B細胞の機能に欠かせない働きを果たしていることを突き止めた。

生命科学と情報科学の融合も

井上特任准教授は大学生になるまで「生物は暗記科目」のイメージを持っていたという。しかし分子生物学と出会い、遺伝情報に基づいてタンパク質がつくられ、それが細胞内でどう働くかという因果関係の面白さにひかれるようになった。生命に関する未知の現象を明らかにするため、免疫以外の分野との協働にも積極的だ。現在は生命科学と情報科学を融合させたバイオインフォマティクスにも関心があり、一人ひとり異なるというB細胞の遺伝子配列の解析を進める。「人工知能(AI)を取り入れることで、その人がどんなB細胞をもっていて、どんなタイプのインフルエンザにかかりやすいかを予測できる時代が来るかもしれません」と、遠大な夢を語った。

●井上 毅(いのうえ たけし)
2001年東京大学教養学部卒業、06年同大学院総合文化研究科博士課程卒業。博士(学術)。東京大学医科学研究所研究員を経て、11年大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任助教(常勤)。17年より現職。「抗体産生を司るB細胞の分化・活性化機構の研究」で2018年度大阪大学賞(若手教員部門)を受賞。

(2019年3月取材)

 

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