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人権宣言の国 フランスに魅せられて

Column. となりの研究者さん

法学研究科・教授・島岡まな

大阪大学の研究者が身の回りのできごとを自身の研究と絡めて綴るコラム。今回は、日仏の経済刑法や、ジェンダーと刑事法について研究している島岡教授が登場!

人権宣言の国 フランスに魅せられて

今年4月、4人の共著で代表執筆者も務めた『フランス刑事法入門』(法律文化社)を上梓した。内容は、フランスの刑法、刑事訴訟法、刑事政策だが、入門書なので、専門外の人にもできるだけわかりやすい内容を心がけた。日産の元会長でフランス人(三重国籍)のカルロス・ゴー ン氏の逮捕勾留事件が世間的な注目を浴びたこともあり、より多くの人に読んでもらいたいと願っている。

他方、私自身は、刑法に限らずフランスから多くを学び、人生を変えられた経験をもつ。フランスと言えばワインとチーズ、ファッションブランドや芸術が有名だが、フランスに数年暮らし、2人の子どもを現地の学校・大学に通わせ、フランスの真の良さを知った。日本人があまり知らないフランスは、1789年に人権宣言を世界に発信した国らしく、社会福祉が発達し、パリテ(候補者男女同数)法の下でジェンダー平等が 進む、正に人権先進国だ。

私が初めてフランスの大学院に留学した約30年前、男女平等も福祉政策も現在の日本より進んでいた。たとえば当時から大学も無償、娘を妊娠した際の妊婦検診も出産も無料、妊娠6カ月から当時既に約3万円の児童手当を娘が3歳になるまでもらえた。だからこそ当時無職の私でも産めたわけで、もし同時期に妊娠したのが日本ならば、今年26歳の娘はこの世にいなかっただろう。ヨーロッパで屈指の出生率を誇るフランスと少子高齢化に悩む日本との差は、歴然としている。

1992年の世界に先駆けた「セクハラ罪」立法もフランスだから可能だったのであり、2018年に財務事務次官がセクハラで辞任する日本との差は、 なお大きいと言わざるを得ない。

フランス刑法に学び、ジェンダー平等の観点から日本刑法の問題点を指摘する「ジェンダー刑法」を日本で初めて専門分野として名乗っている。同時に、おいしいフランス料理、ワイン、素晴らしい芸術を楽しめるフランスの魅力は、私の中で尽きることがない。

島岡 まな(しまおか まな)
1987年慶應義塾大学法学研究科修士課程修了。90~94年フランス・グルノーブル大学大学院留学。盛岡大学専任講師、亜細亜大学助教授を経て、2006年大阪大学高等司法研究科教授、19年より現職。

(本記事の内容は、2019年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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