2019年7月12日

認知機能の研究から老人心理の研究へ

もともとは心理学分野で睡眠の研究をしていた権藤教授。高齢者の心理に関心を持ったのは、大学院生時代。脳波の解析に取り組み、睡眠を研究テーマに高齢者の脳波を一晩中測定する実験で、被験者の高齢者が午前4時に目覚め、電車も動いていないのに「帰宅する」と言い出した。思いもしない行動に高齢者への関心が芽生えた。東京都老人総合研究所(現:東京都健康長寿医療センター研究所)に就職、加齢に伴う認知機能の変化について研究していたが、百寿者を研究している慶應義塾大学の医師から共同研究に誘われたのをきっかけに、「健康、長寿と幸福感」を研究テーマに据えた。

70代以上を対象とした「健康長寿研究」

権藤教授は、大阪大学と東京都健康長寿医療センター等が2010年から始めた、70歳以上を対象にした「健康長寿研究」(SONIC)※で研究代表を務めながら、自らの研究として「心の健康」を担当する。心の健康は、精神健康状態や、楽しい気持ちで過ごす頻度、人生満足度などについての質問紙を用いて評価する。同じ対象者を3年ごとに調査し、加齢に伴う変化も分析する。

調査の結果、70~90歳代で「自分が健康」と答える割合は、どの年代でも8割を超える。一方、病気・障がいがない、いわゆるサクセスフルエイジングを達成している高齢者は17%(90歳代)~69%(70歳代)。「疾患を抱えているのに、健康と感じている人が多い。体の機能は90歳になれば急激に低下しますが、心の健康は維持され、現状を肯定的に捉えるポジティブ感情が上昇しています」

寝たきりのお年寄りでも幸福度は維持されている

2000年から実施している100歳以上の高齢者(百寿者)の面会調査では、今まで500人を超える百寿者から話を聞いた。ほぼ寝たきりの105歳の女性にためらいながらも「生きていても仕方ないと思いますか」と質問したところ、「体は不自由でも、娘の話し相手になってあげられる」と意外にも前向きな答えが返ってきた。他にも、「若い時と同じくらい幸せ」(108歳女性)、「(ベッドの中にいる時間が長いが)仕事で関係した会社のために作詞した社歌を歌ったり、昔を思い出したしりて、つまらなくない」(105歳男性)など、「百寿者の多くが自分自身の存在意義を見出したり、日常生活に制約がある中で楽しみをもって生活されています」と権藤教授。
高齢者の幸福感が強い理由に、高齢期でも心は発達する「老年的超越」という心理学理論があげられる。「親しい人の死など、論理的に解決できないことを経験することで、高齢者は物質的豊かさに対する関心が減少し、社会的な地位や役割にこだわらなくなります。その結果ありのままを受け入れ、今現在を楽しめるようになるのです」。

超高齢社会として注目される日本から情報発信を

これらの研究結果は、「シニア向けの体操教室など施設の活動に、身体機能や認知機能を保って、みんなと一緒に参加できることが幸せ」という一般的な印象とは異なる「高齢者の幸福」の尺度があることを示す。「老年的超越の考え方が広まれば、介護施設などでの職員の接し方にも変化が生まれるかもしれません」と権藤教授。
日本は超高齢社会として世界各国から注目されている。「“90歳、100歳の世界”はまだまだ知られていません。生涯の最晩年においてどのように人が年を重ねるのかを可視化し、世界へ情報発信することが研究者としての役割と考えています。海外で通用する人材育成を含め、世界をリードする研究を進めたい」と、現在、老年的超越に関する海外の研究者との共同研究を進めている。

●権藤恭之(ごんどう やすゆき)
1989年関西学院大学文学部心理学科卒業、同文学研究科心理学専攻単位取得満期退学、博士(心理学)。東京都老人総合研究所などを経て、2007年大阪大学人間科学研究科准教授、18年から現職。

(2019年2月取材)

 

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