2018年9月25日

歴史的に見ると、病理学というのは、病気の成り立ちを明らかにする学問であった。19世紀の後半に確立されたのだが、その時代、疾患の原因を探るには、病気に冒された組織を顕微鏡で見るしか方法がなかった。なので、かつては、病理学の教授といえば全員が病理診断のできる病理医であった。しかし、時代の流れに伴って、いまは状況がだいぶ違ってきている。多くの疾患の本態が分子レベルで解明されるようになってきたからだ。

かくいう私も、病理学講座の教授で病理学総論を教えているが、病理医ではない。そんな私であるが、『こわいもの知らずの病理学講義』という本を上梓した。近所のおっちゃんやおばちゃんにも病気の成り立ちを知ってもらいたいとの思いで書いた本である。

医学書といえば専門用語が多くて、どうしても難解になりがちだ。そうならないように、がんをメインに、いろいろな病気について、講義用に仕入れたおもろい小ネタを散りばめながら、わかりやすい内容にしたつもりだ。

かなりの年月をかけて執筆したけれど、正直なところ、売れるかどうかはまったくわからなかった。しかし、発行以来、本の内容についての講演依頼をちょうだいするなど、とても好評のようでうれしい限りである。

おそらく、病気のことを知りたいという潜在的ニーズがあったのだろう。なのに、適当な本がなかった。それ以外考えにくい。もしそうであれば、この本で多少は社会貢献ができたのではないかと秘かによろこんでいる。

病理医でもないのにこんな本をだして、本流の病理学者の先生方からお叱りをうけるのではないかと案じていたが、いまのところそのような声は聞こえてこない。内容が素晴らしいからであれば問題はないのだけれど、単に相手にされていないだけかもしれないと心配だ。「こわいもの知らず」と銘打っているくせに、その心境になるのはなかなか難しい。

●仲野 徹(なかの とおる)
1981年大阪大学医学部医学科卒業。84年大阪大学医学部助手、89年ヨーロッパ分子生物学研究所(EMBL)研究員、91年京都大学医学部講師、95年大阪大学微生物病研究所教授を経て、2004年から現職。

 

(本記事の内容は、2018年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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