究みのStoryZ

クォークの世界に挑戦

スーパーコンピュータで素粒子の謎を解明

核物理研究センター・特任助教(常勤)・池田陽一

素粒子に関する最新の問題の解明に取り組んでいる池田陽一特任助教。スーパーコンピュータ「京」等を使って、素粒子、クォークの根本理論「量子色力学の方程式を解いている。「基本に忠実に」という研究ポリシーを貫き、長期間におよぶ大規模数値シミュレーションを粘り強く進める。

クォークの世界に挑戦

クォークの根本理論は「量子色力学」

自然界には四つの力が存在する。「重力」と電気や磁石の力である「電磁力」、原子核のベータ崩壊などの原因となる「弱い力」、そして素粒子の間に働いて物質の基本単位を構成する「強い力」。その中で、池田特任助教の研究対象は「強い力」だ。

「強い力」の根本的な粒子は素粒子。「素粒子の中で、主役は『クォーク』。原子核を構成する核子(陽子や中性子)も、クォークからできています。その他に、クォーク同士の間にあって強い力を媒介する役割の『グルーオン』。核子のなかでクォークたちがグルーオンをキャッチボールしあっているとイメージして下さい」  一つのクォークには3種類ある。電気の世界で電荷に+−があって打ち消し合うのと同様に、クォークが3種類集まると、強い力を周りに及ぼさない安定した状態になる。量子色力学ではこの3種類のクォークを、分かりやすいように赤・緑・青(光の3原色)に分類する。3種が集まった状態は「白色=色をもたない状態」だ。
「クォークからできている粒子を『ハドロン』と言います。陽子や中性子などの核子はクォーク3個を持ったハドロン。湯川秀樹博士が予言したπ(パイ)中間子などはクォークと反クォーク(クォークの補色をもつ)の2個によるハドロンです」

4個以上のクォークからなるハドロンを見つけたい

ハドロンには、ルールが一つある。「白色」でなければならないのだ。「理論として我々は知っています。で、不思議に思うのは、全部で400ぐらいあるといわれるハドロンのほとんどが、なぜクォーク2個か3個でできているのかです。白になるためには、必ず2個か3個でなければならない必要は全くない。そこで4個、5個以上でできているハドロンを見つけたい」  4個以上のクォークからなるハドロンを見つけようと、今さまざまなアプローチで研究が行われている。量子色力学の理論は方程式で表現されていて、計算にはスーパーコンピュータを要する。「初めからクォーク6個といった不安定な状態は計算できないので、一度安定な粒子に分け、3個が2組という条件を与えて解くのが我々の方法。3個と3個の間を媒介する力も同時にひき出すことができるし、力の及ぼしあいもトレースできます」。基礎理論から安定粒子間の力を求め、さらにその力を、粒子と粒子をぶつけた時の散らばり方を扱う「散乱理論」に結びつけていく。

4個のクォークの正体を明らかに

2016年に共同研究で、先に実験で存在が予測された「4個のクォークのハドロン」の正体を明らかにした。散乱理論に則って大規模数値シミュレーションを行った結果、4個のクォークからなる新粒子と思われていたZc(3900)が、素粒子なら当てはまるはずの条件を満たしておらず、新粒子とは言えないことを解明した。

池田特任助教にとって研究とは

今は仕事です。それを忘れてはいけないと思う。自分が知りたい、というだけでなく、論文を出すことで責任が生じる。一方、論文を出すと様々な指摘や反論もある。反論もうれしい。刺激になります。研究会に出ると、たくさんの仲間との繋がりを感じる。コーヒーブレイクの時に意見交換したりします。フェイス・ツー・フェイスの交流はおもしろいですね。

●池田陽一(いけだ よういち)
2004年大阪大学理学部卒業。09年大阪大学大学院理学研究科修了、理学博士。09年東京大学大学院理学系研究科特任研究員。10年理化学研究所リサーチアソシエイト。11年日本学術振興会特別研究員(東京工業大学理工学研究科)。12年理化学研究所特別研究員を経て、16年より現職。


未知の世界に挑む研究者の物語 『究みのStoryZ』 に戻る
阪大生と卒業生の物語 『阪大StoryZ』 に戻る

(2018年2月取材)