2018年6月5日

数学を学べば全てが分かるはず

高校時代、受験数学は好きになれなかったが、特殊相対性理論の原論文翻訳本に夢中になった。現代社会で習ったケインズの「信用創造」という考え方にも感銘を受けた。「金融との関連では、高校のころに起きたタイの通貨危機がショックでした。数学を駆使したヘッジファンドが一国の経済を破綻させた。これは何なんだろうと思いました」。大学でさらに世界が広がり、「世の中のさまざまな事象の底には数学がある。数学を学べば全てが分かる」と考えた。現在は主に、金融に関わる数学を研究している。

いかに誤差を小さくするか

研究トピックの一つは、「離散ヘッジ問題」。離散とは「連続でないこと」。株価の変動に関する理想化された方程式では、株取引はいつでも好きな量で無限回行えるが、実際の取引と取引の間には隙間があり、有限回しかできない。取引のたびにかかる費用も、理論上はないことになっており、理想と現実の間にある誤差をいかに小さくするかがテーマだ。
もう一つのトピックは「キャリブレーション」。株価モデルをどのように実装するかを考えている。「ニュートンの方程式における重力定数のような〝定数〟をどうやって決めるのか、がキャリブレーションの問題に相当します」。モデルを簡単に作ると現実に合わない部分が出てくるので、「十分現実に近く、複雑に作らねばなりませんが、すると定数の決め方が難しくなる。そこで、うまい近似の式を出してキャリブレーションを簡便にします」。作った公式が常に現実の近似になっているかを数学的に証明するのに苦労するそうだ。

天文学の「摂動法」から美しい「式」を創り出す

研究手法は「確率解析による摂動法」。株価のようにランダムに動くものは確率解析の枠組みで数式化するが、深澤教授の独自性は、天文学に由来する「摂動法」を数学的に厳密に導入した点だ。「観測した惑星の軌跡はケブラーの法則からはズレ(摂動)がある。それは法則が他の惑星や月などの影響をすべて無視しているから。摂動法では、より精密に軌道を求めるため、小さな影響だけを無視してうまく補正する。天王星の摂動から逆算して海王星を発見したという歴史が、近似の手法としての摂動法の強力さを表しています」
深澤教授の理論は、国際的な評価も高い。「複雑な問題を扱っているのに、数学的にシンプルな式が出てくるところが評価されるのでしょう。実務家が使うものなので分かりやすさも大切だと思います」。摂動法の魅力については、「ごちゃごちゃした現実社会から、理想郷にかける美しい橋のようなもの」と説明する。

●深澤正彰(ふかさわ まさあき)
2004年東京大学理学部数学科卒業、同数理科学研究科中退、博士(数理科学)。07年大阪大学金融・保険教育センター特任助教、10年スイス連邦工科大学( ETH Zurich)高等研究員を経て、11年大阪大学理学研究科准教授、16年より現職。

(2018年2月取材)

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