2018年4月26日

運動による抗うつメカニズムを解明

これまでに、運動をすると、うつが抑制される、海馬で神経新生が促進される、海馬でセロトニンが増加するという三つの効果は解明されていた。近藤准教授は、これらの効果がどのようなメカニズムの下に現れるのか、マウスを使って解明した。運動するマウスの海馬ではセロトニンが増え、セロトニン3型受容体にくっつく。そうすると、海馬の神経新生が増える。その結果、うつが抑制されるというものだ。さらに、運動による抗うつメカニズムと抗うつ薬SSRIによる抗うつメカニズムとは異なっていることを突きとめた。
SSRIは、代表的なうつ病の既存薬。だが、世界に3億人いるといわれるうつ病患者のうち、SSRIでうつの状態が軽減し安定したという人は半分に満たない。「難治性うつ病の患者さんが多いということは、社会問題でもあります。SSRIで効果を得られない残り50%のうつ病患者のために、運動をてがかりとした別のメカニズムをもつ薬があればと思いました」

抗うつ効果の運動模倣薬を開発

そこで、セロトニン3型受容体を刺激する「(セロトニン3型受容体)アゴニスト」という薬を使い、マウスに投与する実験を進めた。「セロトニン3型受容体をもっている神経細胞が、海馬の中で神経新生を促すIGF1という物質を作っているということが分かりました。マウスにアゴニストを投与すると、運動をしなくても、セロトニン3型受容体が刺激され、海馬のIGF1の濃度が上がり、海馬の神経新生が促されました」。その結果、実験に使ったマウスのうつ行動も抑えられた。そこで、マウスにSSRIを投与してみたところ、海馬のIGF1は増えなかったが、SSRIとアゴニストの両方を投与すると、さらに強い抗うつ効果が得られた。「アゴニストがSSRIとは違う経路で抗うつ効果をもたらしていることを示しています」
アゴニストは、運動をしたかのような抗うつ効果が出る運動模倣薬であるといい、近藤准教授は「アゴニストの効果を有する新たな抗うつ薬を作っていきたい」と語る。うつ病患者の中には運動できない人もいるし、運動する意欲を失っている人も多い。「新たな抗うつ薬をきっかけに、難治性うつ病を含む多くのうつ病患者の治療に貢献できたらいいですね」

認知症などにもアプローチへ

近藤准教授は「脳はものを考え、記憶する。感情や運動、感覚も司る。その全てに興味があります。脳って何かということを、究極的には知りたいですね」。今後は、認知症やパーキンソン病など、ほかの脳神経疾患や精神疾患にもアプローチしたいという。

●近藤誠(こんどう まこと) 2012年東京大学大学院医学系研究科修了、医学博士。同年、大阪大学医学系研究科特任助教、13年同助教を経て16年同准教授。15年に大阪大学総長奨励賞、日本神経化学会奨励賞、武見奨励賞、日本解剖学会奨励賞を受賞し、17年大阪大学賞。18年科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞。
2018年冬ごろに、大阪大学出版会から研究の内容についての著作を出版予定。

(2018年1月取材)

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