2018年6月14日

関節リウマチの患者さんを診るなかで

生きた骨の内部では、骨をこわす「破骨細胞」と骨をつくる「骨芽細胞」が絶えず作られている。両者の絶妙なバランスのもとに、骨は自ら、破壊と再生を繰り返し続けている。
石井教授がこのような生きた骨の組織に興味をもったのは、免疫内科医としての経験からだ。日々関節リウマチの患者さんを診ていた。「関節リウマチにかかると、破骨細胞のために、骨の組織が飴のように溶けていきます。今は有効な薬も出ていますが、当時は本当に手の施しようがなく、悪くなる一方の患者さんが気の毒でした」。そもそも硬い組織である骨がどのように溶けていくのかが分かれば治せるのではと思うようになった。
大事だと思ったのは「生きた骨の内部で細胞が動くところを、生きたまま見ること」。しかし、生きた骨を視る技術は、当時世界を見渡しても存在しなかった。「どんなに仮説をたて、モデルを作っても、生きている組織を実際に見なければ、本当のところは分からない」と考えた。

免疫学×イメージングの融合研究へ

そこから石井教授は、生体骨イメージング技術の開発に取り組んだ。  光学の専門家と一緒に研究を進めた。顕微鏡にいくつもの工夫を加え、骨の内部組織を見ることができるように改良していった。  医学の研究者なのに、なぜそんなことができたのかと聞かれることがある。

「医学部の学生だった頃、基礎医学を学ぶ一環としてドイツの研究室に2か月ほど留学し、顕微鏡で生きた細胞を観察する機会をもちました」。しかし、さらに元をたどると、趣味のカメラに関する知識に助けられたところがあるという。

「当時から写真が好きで、長期休暇になると、ヨーロッパの風景を撮影していました」。バックパッカーのような貧乏旅行だったが、カメラだけは一眼レフにこだわった。「デジカメがない時代で、一枚の撮影がとても貴重だった。撮り直しが聞かない。だから旅行に行く時には、かなりカメラの仕組み、撮影方法などを勉強してから行きましたよ」と笑う。このことが、後に顕微鏡の改良に取り組もうという時になって幸いした。「顕微鏡の仕組みは根本的にはカメラと同じ。私は光学の研究家ではないけれど、『光学のことば』がある程度わかったから、専門家とコミュニケーションがとれたのです」。

免疫学フロンティア研究センターを研究拠点に

研究環境にも恵まれた。
アメリカに留学して2年半程たった時に、大阪大学にIFReC(免疫学フロンティア研究センター)が誕生。石井教授は免疫学とイメージングの融合をはかるプロジェクトの推進役として招へいされた。「自分のラボをもって独自の技術を立ち上げることができました」。
大阪大学は日本の中では、融合研究の垣根は低い方だと石井教授は評価している。「同じ吹田キャンパスのなかで医工連携が進められるところがいいですね。私の研究も、大阪大学だから実現できたと言えると思います。どんなに通信技術が発達したとしても、物理的な距離が近いというのは重要ですね」。

画期的な治療法と診断法の開発につなげたい

今後の抱負は、一つは生体骨イメージング技術の普及を後押しし、治療法に還元すること。「新しい方法が確立されると、必ず新しい薬ができるものです。私たちのイメージング技術を使うことで、骨粗鬆症やがんの骨転移など、骨の病気に対してより有効な薬の開発が進めばと考えています」。あのつらい関節リウマチをうまく治療できる薬の開発も視野に入れている。
もう一つは、生きている人でイメージングをすること。「長期的にみて安全か、などのハードルがありますが、人の細胞が活動している様子を低侵襲で定点観測できるなら、今の生検に取って代わる画期的な診断法が可能でしょう。医療が変わると思います」。実現すれば、ノーベル賞も夢ではない。

 

●石井 優(いしい まさる)
1998年⼤阪⼤学医学部卒業。2000〜05年同⼤学院医学系研究科助⼿(02〜05年同学内講師)。医学博⼠。06〜08年⽶国国⽴衛⽣学研究所・国⽴アレルギー感染症研究所客員研究員。08〜11年⼤阪⼤学免疫学フロンティア研究センター主任研究者(准教授)。11年より同研究センター教授。13年より⼤阪⼤学⼤学院医学系研究科・⽣命機能研究科教授。⽂部科学⼤⾂表彰・若⼿科学者賞、⽇本医師会医学研究奨励賞、⽇本学術振興会賞などを受賞。17年大阪大学賞受賞。

(2018年2月取材)

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