2018年7月10日

チタン合金で骨のしなやかさ、柔らかさを実現

チタン合金でできた骨固定用プレートは、骨折の治療に幅広く用いられている。多根准教授によると「体内に入れるチタン合金には、骨と同様のしなやかさと柔らかさ(弾性)が必要です」。さもないと、骨自身が「もう荷重を支える必要がなくなった」とみなしてやせ細る。この問題を解決するには、チタン合金の弾性特性の解明が課題だった。
「一般的に、材料の弾性特性の研究は、多くの結晶で構成される多結晶で行われますが、私は生体用チタン合金の単結晶、すなわち一つの結晶を大きく成長させたものに着目し、弾性率を測定しました。その結果、結晶の方位によって弾性率が大きく異なることを発見しました」。さらに、「チタン合金単結晶の最も弾性率が低い方位では、生体骨とほぼ同様の弾性率の値になる」ことも解明した。つまり、チタン合金の単結晶では、弾性率の方位依存性をうまく利用することによって、骨と同様のしなやかさ、柔らかさを得ることができることをらかにしたのだ。

単結晶を育成せず、研究室レベルで弾性率を測定可能に

しかしチタン合金の単結晶の弾性特性を理解して、弾性率を極限まで柔らかくした最適な生体用インプラント(骨固定用プレート等)の材料を作るには、数多くの大きな単結晶を育成しなければならず、そのためには長時間の育成実験が必要となる。また、チタン合金以外で弾性率の低い材料開発を考える場合、大きな単結晶を育成できない材料もある。
そこで多根准教授は発想を転換し、単結晶を育成することなく、材料の単結晶弾性率を測定できる方法を考案した。ある程度方位の揃った多結晶を用いて、その弾性率を測定し、X線で結晶の方位分布を測る。そして、独自に構築した微視的弾性論に基づく解析モデルを用いて単結晶弾性率を得ることを可能にした。

多結晶中の単結晶の弾性率を決定するには、X線や中性子線を利用する方法があるが、それにはSPring-8(兵庫県)などの大型放射光施設等を使う必要があり、利用しにくいのが現状だった。しかし、多根准教授は、超音波を用いた弾性率測定およびX線解析などの実験的手法に微視的弾性論に基づいた計算科学的アプローチを融合させることで、画期的な新方法を生み出した。「私の開発した測定方法では、研究室レベルの実験設備で容易に精度の高い測定ができるので、実験に対する労力が非常に小さくなります」と自信をのぞかせる。

固体力学と材料工学の分野融合的な研究をもとに新規材料開発を

多根准教授は、「学生時代の固体力学に関する研究が開発した手法の計算科学的なアプローチにつながり、阪大の産業科学研究所で材料研究を行ってきた経験や学びは実験的なアプローチに生かされた。」と振り返る。そして、これらを組み合わせて構築した単結晶弾性率決定手法は自らが目指してきた固体力学と材料工学の分野融合的な研究のひとつの成果と位置付ける。  「今後は、考案した手法やこれまでの研究を生かして、未だ解明されていない現象の理解や新規材料開発につながる研究に取り組みたい」と日々の研究に励んでいる。

●多根正和(たね まさかず)
2004年大阪大学基礎工学研究科修了、博士(工学)。04年同産業科学研究所助手、07年同助教を経て、10年より現職。17年大阪大学賞受賞。

 

(2018年2月取材)

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