2018年8月28日

財源や権限など制度の問題を考える

北村教授は「私の研究は、起きてしまった事件の事後的救済に関するものではなく、これからの社会について、制度や予算、人事管理などの問題を現在進行形で考えるという性格のものです」と説明する。今までに起きた問題を分析して「政治家や官僚、メディアの人たちに読んでもらい、現状から一歩でも改善することに役立ててもらうのが研究者の役割だと思います」と述べる。重視しているのは、データに基づいた研究に徹すること。アンケート調査やインタビュー、公開された数値データを組み合わせ、課題にアプローチしている。
「制度やルールは、必ず誰かを守るために作られています。しかし、社会や経済が変遷していく中で時代に合わなくなるなど、善意でできているはずの法が大きな弊害を生んでしまう。このメカニズムを明らかにしたい」と語る。

大都市の制度的問題を指摘

かつて、政令指定都市(政令市)は人口100万人以上の大都市だった。しかし、市町村合併のなかで、従来のイメージとはかけ離れた市が次々と政令指定都市になった。「政令指定都市は都道府県の約8割の仕事を負担していますが、国からは必要な額の3割しかお金をもらっていない市もあるんです」という。政令市はうまく機能していないのではと感じた北村教授は、現行の都市制度を研究。出版した「政令指定都市」(中公新書)は大きな話題を呼んだ。
制度の問題が突出して表れていたのは大阪市。大阪市について「今のままだとビル・ゲイツなどの辣腕経営者でも立て直すのは難しいでしょう」と話す。その理由は「昼間と夜間の人口の差が大きい。人口260万人の大阪市には、昼間に箕面や宝塚、芦屋など近郊自治体から90万人が流入します。つまり、地下鉄、水道管、道路などの行政コストが、大阪市は周辺の都市に比べ非常に多くかかります。その差は、周辺都市の住民が大阪市内で買い物をする程度では到底埋まりません」
さらに、大阪市は住民の高齢化が進み、行政を支える力がやせ細ってきているのも大きいという。「生活保護を受けている単身世帯の高齢男性が多い。かつて大阪万博や東海道新幹線の工事に携わっていた人たちです。認知症になる人も増え、行政の見回りコストがかかっています」。今も都構想についての議論が続く大阪だが、「行政コストの問題をどう解決するか。難しいですが真剣に考えなければなりません」。

公務員の活動原理を解き明かす

研究のターゲットは、行政の制度だけではなく、行政に携わる人そのものにも及ぶ。公務員はなぜ一生懸命に働くのか。「公務員の仕事量は増えているが、民間と異なり、がんばったからといってなかなか給料に反映されません。在職保障があり、極端に言えばサボってもクビにはならないのに、なぜ一生懸命に働くのか」。その行動モデルについては、これまでにも世界の名だたる研究者が挑んできた。しかし、完全に解き明かしたものはなく、今なお議論が続く。北村教授は、この大きなテーマに挑戦しようとしている。  調査を進めながら、北村教授は「公務員は、給与の伸び率以上に仕事が増えると1件あたりの仕事の質を落とすことで、実質所得を挙げているのではないか」と仮説を立てた。「仕事量がアップし、給料は変わらないという現状で、彼らがやりがいを持って働き、最終的に住民サービスの向上につながるような、有効なインセンティブを考えたいです」。2016年は文部科学省の官僚にアンケートを行って統計分析した。「新しい研究動向を踏まえ、他大学にも協力してもらい続けたい」

●北村亘(きたむら わたる)
1998年京都大学法学研究科修了、博士(法学)。2000年甲南大学法学部助教授、05年大阪市立大学大学院法学研究科助教授などを経て、08大阪大学大学院法学研究科准教授、13年より現職。14年からは台湾の国立台湾大学や国立政治大学で客員教授。著作『地方財政の行政学的分析』(有斐閣)、『政令指定都市』(中央公論新社)、『ストゥディア地方自治論』(有斐閣)など。

(2018年2月取材)

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