2018年10月9日

接合部の性能は構造物の安全に直結

「一般の人は溶接部をそんなに気にかけないと思いますが、単に溶けたものが固まってつながっていればいいのかというと、そうではありません」。三上准教授は、接合部に変化が起きることを前提に考える。「鋼の溶接部は、肉眼で見ても違った模様が見えるように、顕微鏡で見ると硬い部分と軟らかい部分が入り混じった形の材料組織であることが分かります。それぞれ強度や伸び方などの特性が違うので、引っ張った時の力のかかり方も違う。そのため壊れるまでの挙動や限界が変わってきます。このことを踏まえて強度を評価し、元の材料と同じ、さらにはより高い性能を出すにはどうしたらいいかを考えています」
研究キーワードは「溶接変形と残留応力」。「溶接部は、溶けて固まるプロセスを経て、元の長さ以下に縮もうとします。すると周りから引っ張られ、溶接し終わった段階で応力(物体の内部に生じる力)がかかります。その力がかかったままになっているものが残留応力。溶接継手の性能低下の原因となるうえに、溶接すると不可避的に生じるのでやっかいな現象です」

シミュレーションで新たな知見を

数値シミュレーションにより、溶接変形や残留応力を把握し、評価していく。溶接や測定を行っている研究者と共同で、実際の条件をつぶさにモデル化したシミュレーションを担う。両方の結果をつき合わせてシミュレーションの妥当性をチェックし、溶接部の特性評価にも活用できる実用的なシミュレーション手法を構築することを目指している。
この数値シミュレーションという手法には、すでに長い歴史がある。しかし、シミュレーションだけの試みには未だに信用が薄いと、三上准教授は語る。「例えば、先に数値シミュレーションを行って、あたりをつけてから実験するのは良い方法だと考えられていますが、溶接変形や残留応力の分野ではまだ発展途上です」
そうすれば、より効率的に評価ができるようになると期待できる。「将来的に、数値シミュレーションには、現象を理解し、新たな知見を生み出すことをサポートするツールとして役立ってほしいと思っています。単なる計算道具で終わらせたくない」と語る。

「出口」を意識した、企業との共同研究

石油の掘削などに用いられる海洋構造物の溶接部が、どれだけの荷重に耐えられるかを評価する、破壊靱性試験に関する共同研究プロジェクトにも参画している。プロジェクトのメンバーには、鉄鋼メーカーや重工メーカー、エンジニアリング関連などの企業も多い。「企業は常に出口を考えています。学術レベルで興味をもったことを、どう使えるか、いつ使えるようになるか、などの視点から見直せるので、共同研究はいい刺激になります」

●三上欣希(みかみ よしき)
2006年大阪大学大学院工学研究科修了、博士(工学)。同年工学研究科特任研究員、07年同研究科特任助教、08年同研究科助教、16年同研究科准教授、17年より現職、大学院工学研究科准教授(兼任)。

(2018年2月取材)

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