究みのStoryZ

政策への活用をめざした データにもとづく仮説検証

データ分析から社会を読み解く

国際公共政策研究科・准教授・松林哲也

「エビデンスに基づく政策形成(evidence-based policy making)」という原則が注目を集めている。アメリカで政治学を学び、研究を進めてきた松林准教授は、学術研究において重要なことは因果関係を明らかにするようなエビデンスを積み重ねていくことだと考える。

政策への活用をめざした データにもとづく仮説検証

選挙における有権者の行動について研究

松林准教授は主に、選挙における有権者の行動について研究している。どのような特徴をもつ人が投票するのか。投票に行かない理由は何か。投票は政治家の行動をどう変え、最終的には政策にどう反映されるのか。それらの点について仮説をたて、データを使って検証することで理解しようと試みている。
「例えば期日前投票の実施によって投票率が上がったかを、過去の衆議院選挙のデータを使って調べています。期日前投票制度によって有権者の利便性は向上しましたが、選挙に行く人の数は実際に増えたのか、検証が必要です」
統計分析の結果、期日前投票所数が増えたところでは投票率が上昇し、一方で選挙当日の投票所数が減ったところでは投票率が低下したことがわかった。実際に投票事務のアルバイトを経験したこともある松林准教授。「今のやり方でいくつもの投票所を開設するのは、非常にコストがかかります。そこをクリアして、しかも有権者の利便性を損なわずにすむ方法を考え出す必要があります」
投票率がじりじりと下がっている日本。「私が一票を投じても、それで政策が変わるのか?」という点に疑念を抱く有権者は多い。そのなかで松林准教授の思いは「『一票』へのモチベーションを与えられるような研究がしたい」。どのような制度を作れば、誰もが選挙に参加できるようになるのかを模索している。

自殺予防の問題にデータ分析でアプローチ

研究上重視しているのは、「このような条件を与えれば、人はこう行動する」というエビデンスを提示できるように調査すること。政策立案者が、研究者によって蓄積されたエビデンスを活用すれば、適切な政策実施につながると考えている。
自殺の予防対策につながる調査研究も行ってきた。『青色灯は飛び込み自殺を減らすと考えられ、2009年以降、各鉄道会社が駅ホームに導入した』と知り、実際にどの程度の予防効果があったかを検証した。「2013年までのデータを統計分析した結果、導入後の駅では自殺数が実に74パーセントも減っていたのです」。この調査結果を社会に役立てるため、まずは英語で論文に。次いで一般向け書物『自殺のない社会へ』を出版。少なからぬ社会的反響があった。しかし松林准教授は、特定の条件下で青色灯に自殺防止効果があったことを認めつつも、さらに検証が必要だと語る。
その後、共同研究で『4月2日の直前に生まれた早生まれの若者の自殺率は、4月2日の直後に生まれた若者より約30パーセント高い』、『誕生日に自殺する人の数はそれ以外の日に比べ50%ほど多い』という事実を明らかにした。
自殺は個人的な問題と考えられがちだが、現実には社会生活のなかで自殺に追い込まれる人が多いと松林准教授は考える。「社会科学の研究者がこの問題にもっと関わってもいいのではないか、という思いで研究しています」

もっと社会に役立つ研究を進めたい

今後、どんな研究がしたいかという質問には「今までの研究テーマを継続し、社会に役立つ提言を出していきたい」。実は、基本的にデータをとるのが好きで、新しい研究への誘いも断れない性分だから、「あまり手を広げすぎないようにしたいですね」と微笑んだ。

松林准教授にとって研究とは

生きていること、生活そのもの。呼吸や食事、人との会話と同じように自然に行っている行為で、それが社会の役に立てばうれしい。

●松林哲也(まつばやし てつや)
2002年同志社大学アメリカ研究科修了、07年米テキサスA&M大学大学院政治学部博士課程修了。政治学博士。米ノーステキサス大学政治学部助教授を経て、13年より現職。著書は「政治行動論」(共著・有斐閣)「自殺のない社会へ」(共著・有斐閣)など。

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(2018年1月取材)