2018年5月31日

「トロイの木馬」のように感染拡大

トキソプラズマは、感染した生肉や生焼け肉を食べるなどして体内に入る。国内では、妊婦が感染して流産や死産したり、感染したまま出産したりするケースは400~500例あるとみられる。治療法は確立されておらず、詳しい実態は分かっていないが、山本教授は、特定の遺伝子を欠損させたノックアウト原虫やノックアウトマウスなどを使って研究。 体の内側では、免疫機能を担うインターフェロンにより誘導され、トキソプラズマ破壊のための宿主免疫分子GBPが、トキソプラズマ症の発病を抑制するための最重要因子であることを明らかにした。また、細胞内小器官の小胞体が、宿主の免疫であるキラーT細胞の活性化に重要なことを発見。同時に外側からのルートとして、トキソプラズマが分泌する病原性因子ROP18が、キラーT細胞の機能を抑えるため、小胞体のタンパク質を標的にしていたことが分かった。 さらに、トキソプラズマが分泌する病原性因子GRA6が、宿主の免疫制御分子を活性化して、自然免疫細胞の好中球を呼び寄せて感染することで、局所から全身に感染が拡大していると解明した。「いわばトキソプラズマはタクシーのように好中球を呼び寄せ、ハイジャックしたうえで、ギリシャ神話に出てくる『トロイの木馬』のように好中球を利用して全身に拡大していくわけです」

将来はSFのような可能性も

東京大学理学部を卒業後、阪大の大学院で免疫と寄生虫を研究。その後、独自の研究を模索する中で、トキソプラズマを使った免疫寄生虫学にたどり着いた。「片足は元の免疫の研究に残して、もう片足は新しい場所のトキソプラズマに置くような感じですね」。ノックアウトマウスの作成など遺伝子改変の技術も習得していたことが、希少な〝二刀流〟の研究に役だった。  「今後、細胞の中で自己と非自己の識別の原理はどう決まっているのか、今の研究を延長していけば解明できる気がしています」と語る。その先にはSFのような可能性も広がる。「元々トキソプラズマの先祖は植物と同じく光合成をして宿主と共生していました。しかし進化の過程で宿主から栄養を取り寄生することで、光は必要なくなったのですが、その寄生と共生の原理が分かれば、将来、葉緑体を取り込み光合成ができる動物細胞ができるかもしれません」

畜産の現場でのフィールドワーク

学生時代は研究が楽しくて四六時中研究していたという山本教授。今は研究室だけではなく、畜産農家に出向き、実際に家畜がトキソプラズマに感染しているかどうかを調べるなどフィールドワークも手がけている。

 

●山本雅裕(やまもと まさひろ)
2001年東京大学理学部卒業。2006年大阪大学大学院医学系研究科医科学博士課程修了。医学博士。2013年から現職。

(2018年2月取材)

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