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血管構造の美しさに魅せられ、 血管形成メカニズムの解明からがん完治に挑む

微生物病研究科・助教・木戸屋浩康

木戸屋浩康助教の専門は、血管の構造や形状・性質を解明する「血管生物学」。血管新生の仕組みから、がん組織などに見られる血管形成までを網羅的に研究し、血管形成の制御によるがん治療薬の開発をめざしている。

血管構造の美しさに魅せられ、 血管形成メカニズムの解明からがん完治に挑む

「ヒトの血管は、長さが約10万㎞(地球2周半)、総面積はテニスコート6面分もあると言われています」と木戸屋助教。血管研究のモチベーションとなっているのは「血管構造の美しさ」と「そのような形態を作り出す仕組みを知りたい」という強い思いだ。

「血管のつくられ方は樹木の成長に例えられることが多く、新しい血管は植物が発芽し枝を伸ばすように成長します」。こうして形成された直後の血管は均一な網状の毛細血管だが、「血管リモデリング(再構築)」を経ることで動脈、静脈が生みだされ、神経と併走する構造へと変化していく。「つまり、神経に近い毛細血管の一部が動脈となり、次いで毛細血管の一部が静脈になります。そして、静脈がスライドするように動脈に引き寄せられ併走するようになります」。木戸屋助教は、この血管が動くという現象を「血管束移動」と命名し、血管形成の新たなメカニズムとして提唱している。

「血管束移動」の解析は、新しいがん治療薬の開発にもつながる。「がんの腫瘍組織には数多くの血管が作られており、がんの増殖と血管の形成には密接な関係があると言われています」。腫瘍血管の『新生』を阻害する薬剤は既に開発されているが、マウスモデルには有効であるのに対し、なぜかヒトには治療効果が限定的だ。その原因について「私たちは『血管束移動』が腫瘍血管の『形成』に関与しているのではないかと考えています。がんは複雑で多様ですが、その一種類だけでも完治できる薬の概念を発見したい」

木戸屋助教はサイエンスの楽しさを知ってもらおうと、高校生などに対するアウトリーチ活動にも熱心に取り組んでいる。「血管構造を顕微鏡で見てもらうと、みんな感動します。自分が初めて顕微鏡を覗き、生物組織の美しさに惹かれ科学に興味を持ったように、中高生が生物学に興味を持ち、研究者をめざす人が増えてくれたら嬉しいですね」と笑う。



●木戸屋浩康(きどや ひろやす)
2004年金沢大学大学院自然科学研究科(癌研究所)修了。08年大阪大学医学系研究科修了。医学博士。大阪大学微生物病研究所にて日本学術振興会特別研究員(PD)を経て09年から現職。Japan Prize研究助成(15年)や学会の若手優秀賞など受賞多数。

(2017年10月取材)