溶けたヨウ化セシウムは二酸化ウラン上で濡れ広がる

溶けたヨウ化セシウムは二酸化ウラン上で濡れ広がる

福島第一原子力発電所からの放射性物質の放出挙動解明に期待

2017-9-22工学系

研究成果のポイント

・主要な核分裂生成物化学種であるヨウ化セシウムの液体が、固体核燃料の二酸化ウラン上で極めて良好に濡れ広がることを発見しました。
・福島第一原子力発電所事故に際して、放射性セシウムや放射性ヨウ素が大量に放出されましたが、そのメカニズム(放出挙動)は完全に解明されていませんでした。
・固体と液体間の濡れ性は、固体から液体を引きはがすのに必要なエネルギーと密接に関係しています。このため、今回明らかになった固体二酸化ウランと液体ヨウ化セシウム間の高い濡れ性を考慮することで、核燃料からのセシウムやヨウ素の放出挙動をより正確に評価できるようになります。

概要

大阪大学大学院工学研究科の黒﨑健准教授、鈴木賢紀講師のグループは、福井大学と共同で、溶融したヨウ化セシウムが固体の二酸化ウラン上で極めて良好に濡れ広がる(固体と液体の接触角がほぼゼロ度であり、まるで超親水性のように濡れ広がる)ことを発見しました。固体と液体間の濡れ性(固体表面に対する液体の親和性(付着しやすさ))は、固体から液体を引きはがすのに必要なエネルギーと密接に関係しており、濡れ性が高い(良好に濡れ広がる)ほど固体から液体を引きはがしにくくなります。本研究成果では、溶融したヨウ化セシウムは、固体の二酸化ウラン上で良好に濡れ広がることにより、放射性物質として放出されにくくなっている可能性が示唆されました。

今回明らかとなった知見は、福島第一原子力発電所からの放射性セシウムや放射性ヨウ素の放出挙動の解明に直結する重要な発見です。

本研究成果は、2017年9月13日付でNature Publishing GroupのScientific Reports誌にオンライン出版されました。

研究の背景と成果

福島第一原子力発電所事故により、大量の放射性物質が環境中に放出されましたが、その放出挙動、例えば、放射性物質が、いつ、どれだけ、どのような化学形態で、どのようにして放出されたか等は、いまだ完全には解明されていません。その原因の一つに、核燃料から放射性物質が放出される際に重要となる「核燃料と放射性物質の界面近傍における相互作用」の状況に関する知見がほとんどなかったことがあげられます。

今回、黒﨑准教授らは、固体核燃料である二酸化ウラン(UO 2 )上で代表的な放射性物質のセシウムとヨウ素からなる化合物であるヨウ化セシウム(CsI)を溶かし、その溶融挙動を直接観察する実験を行いました。その結果、CsIの液体が固体UO 2 に対して、極めて良好に(超親水性のように)濡れ広がることを実験的に見出しました (図1) 。また、液体のCsIが、緻密なUO 2 焼結体の奥深くにまで浸透することも見出しました (図2) 。このような現象はこれまで予想すらされていなかったことで、全く新しい発見となります。さらに、固体UO 2 と液体CsI間の界面エネルギーが小さい故に、このような特異な現象を引き起こしていることを突き止めました。

図1 固体二酸化ウラン(UO 2 )上でのヨウ化セシウム(CsI)の溶融の様子
CsIは、溶融後、直ちに、固体UO 2 表面に極めて良好に濡れ広がることが確認された。

図2 図1で示した試験後の固体二酸化ウラン(UO 2 )試料の断面観察結果
緻密なUO 2 焼結体の奥深くにまで液体CsIが浸透している様子が確認できる。a:走査型電子顕微鏡像、b~c:元素分析結果(元素の存在箇所を色で示している。b:ヨウ素の分布、c:セシウムの分布、d:ウランの分布)。スケールバーの長さは20マイクロメートル。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回明らかとなった溶けたヨウ化セシウムが二酸化ウラン上で極めて良好に濡れ広がるという事象を新たに考慮することで、核燃料からの放射性物質の放出挙動をより詳細に評価できるようになります。様々な放射性物質の中でもセシウムとヨウ素は、それぞれ、放射能汚染と公衆被ばくに直接的に影響を与えます。このため、核燃料からのセシウムとヨウ素の放出挙動評価の確度を上げる本研究成果は、福島第一原子力発電所周辺の放射能汚染と公衆被ばくの程度の正確な評価はもとより、福島第一原子力発電所の廃炉作業の高度化にもつながる、重要なものであるといえます。

特記事項

本研究成果は、2017年9月13日付でNature Publishing GroupのScientific Reports誌にオンライン出版されました。

掲載論文:High wettability of liquid caesium iodine with solid uranium dioxide
著者:Ken Kurosaki, Masanori Suzuki, Masayoshi Uno, Hiroto Ishii, Masaya Kumagai, Keito Anada, Yukihiro Murakami, Yuji Ohishi, Hiroaki Muta, Toshihiro Tanaka, Shinsuke Yamanaka
DOI: 10.1038/s41598-017-11774-0.

参考URL

大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 環境エネルギー材料工学領域
http://www.see.eng.osaka-u.ac.jp/seems/seems/index.html

大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻 材料エネルギー理工学講座 界面制御工学領域
http://www.mat.eng.osaka-u.ac.jp/msp2/MSP2-HomeJ.htm

用語説明