誕生日前後の死亡リスクの増加傾向を明らかに

誕生日前後の死亡リスクの増加傾向を明らかに

自殺予防対策に繋がる成果

2016-6-1

本研究成果のポイント

・1974年から2014年にかけての日本で、自殺や事故を原因として死亡した全ての人々を対象とした統計分析を行った結果、誕生日には他の日より自殺や事故によって死亡する人数が多いことが判明
・海外では誕生日における死亡者数の増加傾向が確認されているが、日本で同様の傾向の存在は不明だった
・今後の自殺予防対策に重要な示唆を与える研究成果

概要

自殺は現代日本を特徴づける深刻な社会的問題であり、その予防は喫緊の課題です (図1) 。大阪大学大学院国際公共政策研究科 松林哲也准教授とアメリカ・シラキュース大学リサーチアシスタントプロフェッサー上田路子は、死亡者の誕生日と死亡日の関係に注目し、1974年から2014年にかけての人口動態調査データを分析しました。この調査データには当該期間中に自殺や事故を原因として死亡した全ての人々が含まれます。統計分析の結果、誕生日に自殺や事故で死亡する人数は他の日に死亡する人数と比べて大幅に多いことがわかりました。死因別に見ると誕生日の影響が最も強く見られるのは自殺で、誕生日に自殺で亡くなる人々の数はそれ以外の日に亡くなる人の数より50%多いことを明らかにしました。

誕生日に死亡する人が多い傾向は他国における研究で確認されていますが、日本でもそのような傾向が見られるかについては明らかになっていませんでした。

本成果は、自殺リスクの高い人が誕生日を迎える際には、医療関係者や家族・友人が格段の注意を払ったり、普段以上のサポートを提供したりすることの必要性を示唆しており、今後の自殺予防対策を考えていく上で社会的意義が大きいと考えられます。

本研究成果はSocial Science & Medicine に2016年4月29日付で掲載されました。

図1 内閣府 自殺対策白書 国際的に見た自殺の状況と外国人の自殺の状況
死亡者に占める自殺者の割合を示した本図からも、日本の死亡者に占める自殺者割合が主要国より多いことがわかる

研究の背景

誕生日前後の死亡リスクに関しては、これまでに二つの仮説が提唱されてきました。一つ目の「延期」仮説によると、誕生日など自分にとって意味のある記念日を迎えるまでは生き続けようとする人が多い場合、誕生日に死亡する人の数は少なくなると予想されます。対照的に、二つ目の「誕生日ブルー」(birthday blues) 仮説によると、記念日を期待していたような形で祝うことができなかった場合などには、孤独感などの心的ストレスが増えるため、誕生日に死亡する人の数は多くなると考えられます。欧米における近年の研究は後者の仮説を支持する結果となっていますが、文化の異なる日本でも同様の傾向があるかについては明らかになっていませんでした。

研究の詳しい内容

松林准教授らの研究グループは、1974年から2014年にかけての人口動態調査の死亡票を用いて統計分析を行いました。分析対象としたのは、自殺、交通事故死、溺死、窒息死、転落死です。調査データには、当該期間中にこれらの死因によって死亡した全ての人々が含まれます。

分析対象の死亡者数は約207万人でした。 図2 の横軸は1974年から2014年の間に自殺や事故を原因として亡くなった人々の誕生日と死亡日の差を表しており、誕生日と死亡日が同一であれば0、死亡日と誕生日が離れるほど0 から離れた値をとります。縦軸は分析対象期間中の総死亡者数を表しています。

図2 では、横軸が0における(つまり誕生日に死亡した)死亡者数は約8000であり、一方で誕生日以外の死亡者数の平均が約5700であることから、誕生日に死亡した人の数が大幅に多いことがわかります。

さらに、死因別に、誕生日からの日数と死亡者数の関係をポアソン回帰分析という統計手法を用いて分析したところ、誕生日の影響が最も強く見られるのは自殺で、自分の誕生日に自殺で亡くなる人々の数はそれ以外の日に比べて50%ほど多いことがわかりました(95%信頼区間:46-55%)。さらに、乗用車やバイクによる交通事故死、また溺死や転落死などの数も、誕生日には20%から40%ほど上昇します。

図2 誕生日前後の死亡者数

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究の成果は、自殺念慮を持つ人や自殺リスクの高い人が誕生日を迎える際には、医療関係者や家族・友人が格段の注意を払ったり、普段以上のサポートを提供したりすることの必要性を示唆しており、今後の自殺予防対策を考えていく上で社会的意義が大きいと考えられます。

特記事項

本研究成果はSocial Science & Medicineに2016年4月29日付で掲載されました。
雑誌名:Social Science & Medicine (2016) 159: 61-72(2016年4月29日掲載)
論文タイトル:“Suicide and Accidents on birthdays: Evidence from Japan”
著者:松林哲也、上田路子
DOI番号:10.1016/j.socscimed.2016.04.034
URL: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277953616302088

参考URL

国際公共政策研究科 准教授 松林哲也
https://sites.google.com/site/tetsuyamatsubayashi/

用語説明