2016年1月19日

本研究成果のポイント

・大規模調査のデータ解析により、若年層の「育メン意識」や「内向き志向(留学忌避)」など、社会構造の時代変化と日本人の「社会の心」の変容の対応関係を明らかにした
・調査の目的は、格差、満足・幸福、絆、ワークライフバランス、政治参加、子育て・教育、ジェンダー、勤労意識、消費文化などの日本社会の最新の論点をめぐる人びとの意識の把握
・20年前の調査との比較設計をもち、平成期の「社会の心」の動き、とりわけ、これまで把握しづらかった若年層の心の変化の兆しを捉えた

リリース概要

大阪大学大学院人間科学研究科の吉川徹教授らの研究グループは、2015年に実施した大規模な学術社会調査のデータ解析結果を20年前のデータと比較することにより、若年層の「育メン意識」や「内向き志向(留学忌避)」など、社会構造の時代変化と日本人の「社会の心」の変化を、数的根拠を伴って明らかにしました。

本研究成果により、一億総活躍社会の実現に向けて、国民の意識の温度差がどこにあり、何が実際上の課題となるかをデータから読み解くことができます。

調査結果の例
「育メン意識」は、女性より男性でむしろ高い?!

研究の背景

学術社会調査は、対象者設計と調査方法の精度の高さ、質問項目数の豊富さ、対象者のプロフィールの情報量の豊富さなどの点で、マスメディアの世論調査とは異なる特性を持ちます。それゆえに費用と時間が格段にかかり実施頻度は高くありません。しかし、社会構造の時代変化と日本人の「社会の心」の変容の因果的対応については、大規模サンプルの入念な調査設計と、高度な解析技術が必要となるため、学術社会調査でしか把握することができません。

目下の課題のひとつは、若年層の動向を把握しにくいことでした。これは、そもそも30代以下の世代が人口ピラミッドにおいて少数派であるうえに、調査拒否や長期不在が多いためです。しかし、現役で社会を支える若い世代の心のあり方の把握は、この先の日本社会の動向を、ソフトウェアの面からいち早く知ることにつながります。

今回、吉川教授を中心に、約50名の計量社会学者が集い『SSPプロジェクト(階層と社会意識研究プロジェクト)』※1 が組織され、予備調査や解析を行い、その集大成として「第1回SSP調査」(全国面接社会意識調査)を実施しました。この調査では、データの10年間隔の継続性を維持しつつ、最新の社会意識を捉える設計が施されています。

なお、このプロジェクトは、吉川教授を研究代表として、日本学術振興会の科学研究費補助金 基盤(S)により実施しました。

※1 SSP(Stratification and Social Psychology)プロジェクト
階層(社会的な立場の上下)と社会意識(ものの見方や考え方)の関係に実証的に取り組む包括的な研究者組織として2011年に新たに立ち上げられました。

研究成果の概要

今回は調査データの集計結果報告をするのではなく、性別、生年世代、学歴、収入、職業などの社会のしくみと、現代人の心のあり方のつながりを多変量解析した結果を発表し、これに基づいた現代日本社会の展望を示しました。

発表した知見は家族、ジェンダー、教育、消費、格差など多岐にわたりますが、以下ではごく一部を例示します。

・「育メン意識」は、女性より男性でむしろ高い?!
女子就労や少子化を左右する夫婦間の家事分担については、男性の家事育児参加という観点から新たな質問を設計しました。すると、家事育児参加は、意外にも男性において女性よりも肯定的に受容されていることがわかりました。

図1 夫が妻と同じくらい家事や育児をするのはあたりまえのことだ

・若年層で「内向き志向(留学忌避)」、仕事から疎外、高まる競争不安
国際的な人材教育の受け止められ方をみるために、海外留学志向の高さを尋ねました。すると20~30代では中・壮年層より否定的な傾向が強いことがわかりました。他方で20~30代は、職場での働きぶりが認められていると考えておらず、競争に対する不安が20年前の若年層よりも高まっています。

図2 子どもには海外留学をさせたほうがよい

図3 職場では自分の働きぶりが認められている

・格差社会を敏感に見定める傾向が鮮明に
新自由主義的な競争社会を肯定する傾向は、大卒層、ホワイトカラー職、高世帯収入層で強くなっています。逆に、相対的な低層は、経済リスクに対する脆弱さを感じており、福祉への期待と平等志向をもっています。つまり社会のどの層にいるかということで、格差の実感や格差社会への見方に温度差が生じ始めているのです。
他方、かつて一億総中流を読み解いた階層帰属意識を多変量解析でみると、2015年の日本人は、学歴・職業・収入の上下について1995年の約1.5倍敏感に反応するようになっていることがわかります(図表は省略)。

図4 チャンスが平等にあたえられるなら、競争で貧富の差がついてもしかたがない

本研究成果の社会的意義(明らかになった動向)

・一億総活躍社会の実現に向けて、国民の意識の温度差がどこにあり、何が実際上の課題となるかがデータからみえてきた。
・従来の日本社会の動向を大きく左右してきた「団塊の世代」は、産業経済局面や次世代をはぐくむ家族局面から次第に退きつつあるが、その後の日本社会の「社会の心」の方向性が明らかになってきた。
・言説としてしばしば耳にする、若年世代の「内向き志向」、職場や政治制度からの疎外、活動の消極性、保守回帰などの現象が、数的根拠を伴ってみえはじめた。
・かつて総中流を語った意識の時点間比較からは、格差社会を正しく見極め、それに向き合って生き始めている現代日本人の新たな姿が浮かび上がってきた。

このように、現代日本人の日々の暮らしぶりが、ものの見方や考え方(社会意識)をどのように形作っているかを調査し、とりわけ、現代産業社会の中での位置づけ(階層)と日本人の「社会の心」(社会意識)の関係を読み解くことにより、「総格差社会日本」がこの先どのように進んでいくのかを明らかにすることが期待されます。

参考URL

大阪大学大学院人間科学研究科社会環境学講座 経験社会学研究室HP
http://keisya.hus.osaka-u.ac.jp/index.html

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