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神経回路の修復に関わる新生血管分泌物を発見 あらゆる生命 いとおしく

医学系研究科・准教授・村松里衣子

神経回路の修復に関わる新生血管分泌物を発見 あらゆる生命 いとおしく

神経回路の修復に関わる新生血管分泌物を発見 あらゆる生命 いとおしく

脳や脊髄が外傷などで傷つき運動障害が生じても、体内では中枢神経組織の修復が行われ、失われた運動機能はある程度自然に回復する。そのことは以前から知られていたが、修復のメカニズムについての解明は進んでいなかった。村松里衣子准教授が突きとめたのは、神経回路が修復される際、周囲で新たに発生した血管からの分泌物質が回路修復を促進しているという事実である。この分泌物質はプロスタサイクリンという。存在自体は知られていたが、神経細胞の形成に関係があるとは考えられていなかった。これらの功績から2013年の総長奨励賞を受賞した。

血管からの分泌物質といっても、多種類ある。そのなかで、村松准教授はプロスタサイクリンを含む3種の物質のいずれかが、神経回路修復を促進する物質だと考えた。たまたま最初に検証を試みたプロスタサイクリンが的中したのは「強運だったのかな」。機能障害の回復に役立つ新たな治療薬・治療法の開発の可能性を切り開く発見だと、大いに期待されている。

現在は、子育てと研究を両立中。「子どもと過ごす時間を大切にしたいと考えるようになって、かえって時間を有効に使えるようになった」。気分転換は親子でガーデニングをすることだ。芽吹いた花を見ていると「生命が成長する力強さに圧倒される」。植物が成長するのも、子どもの背が伸びるのも、神経細胞の軸索が伸びていくのも同じようにうれしいそうだ。心の底には、生命をいとおしく思う気持ちがあるのだろう。

●村松里衣子(むらまつ りえこ)

2008年東京大学薬学系研究科博士課程修了。同年大阪大学連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター特任助教、10年大阪大学医学系研究科助教、14年より現職。博士(薬学)。13年科学技術振興機構のさきがけプログラムに採択。14年文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞。


(本記事の内容は、2014年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)