2019年6月25日

医療現場や市街地、道路などで人、車の動きを研究

東野教授は、災害時の救急医療を助ける「電子トリアージシステム」や、スマートフォンなどを利用した「群衆センシング」によりモデル化した人の動きの予想、ドローン撮影と立体再現技術を組み合わせた被災状況の把握など、社会問題の解決につながる開発研究に幅広く取り組んでいる。
電子トリアージシステムとは、IT技術を利用したイノベーティブな救命救急医療支援システムである。大事故や大規模災害により多数の病人やけが人が発生した時に、一人一人に電子タグを装着し、そこから得られる脈拍数や血中酸素濃度などのセンシング情報を、位置情報とともに救命活動を行う人々に無線ネットワークを介して送るしくみだ。
さらに、壊れた建物や障害物がどこにあるのかを無線の電波信号の強度で把握し、災害現場の「地図」を自動的に作る技術も確立した。

また、センシング技術で集めたデータを解析して、公共空間の混雑状況など、さまざまな状態を推定し、モデル化する研究を行っている。リアルに近い街や道路のモデリングを行って、車両や人の動きを高精度で再現するため、しばしば混雑した場所で人の動きを計測することもある。
この「群衆センシング」は、スマホの普及によって格段に手軽、かつ安価になった。今では、渋谷の交差点の写真から自動で人数を推定したり、10〜20人の学生に繁華街の複数の場所で写真を撮ってもらえば、街の人の動きがほぼ再現できる。車についても、最近はドライブレコーダーの普及により、車両の位置や速度、歩道を歩く人の数などのデータが得やすくなっている。

平常時、災害時の人の動きを詳細に再現する

さらに、東野教授は地下街などの都市環境について、緊急時にどこから逃げれば、全員が脱出するまでにどのくらい時間がかかるかを、さまざまな人の動きを表す人流モデルから評価している。
「朝は通勤客が中心なので、一方向に人の流れが進むが、昼は買い物客が多く、いろいろな方向に歩いている。だから、誘導の仕方も変わってくる。各々について、どういう避難指示を与えればいいかを考えて評価します」
最近は、人の行動を変えさせるような情報提供の方法を、心理的要素も含めて考えることが大切だと考えるようになったという。「災害時に情報をもらった人のうち、何割が誘導された方向に行くか。人の密度がどの程度以上になると、脱出するのにどれだけ余分な時間がかかるか、などが分かるモデルの作成に関心をもっています」

このほか、ウェルネスという観点からも研究を行っている。その一つが、学生の発案による「熱中症の予兆検知システム」だ。「熱中症は未然に防ぐことが大事なので、スマホやウェアラブル端末を活用して予兆(深部体温の上昇)を検知し、フィードバックするしくみを作っています」。心拍数や体表温度などのバイタルデータと気温や湿度、日照などの環境データから、直接測定困難な血流量や発汗量といった深部体温推定に必要な重要なパラメータ値を推定するモデルを作ることで、個人差や体調も加味できるようにしている。

ドローンからの撮影で被災の様子を把握

災害による家屋への被害、地形の変化などの被災状況を早期に把握するため、ドローンを使った研究も進める。空から撮影した写真に、国土地理院のデータによる高度補正を加え、立体再現技術を組み合わせることで精度を高めている。
「予め、危険地域にドローンを飛ばして情報を取得しておきます。その上で、台風などの災害が起きた時に再び撮影すれば、被災状況を機械的に把握できるのではと考えています」
実験では、建造物の模型を作って上から撮影。それを壊して同じところから撮り、建造物の高さの変化を確認している。「上手くいけば、誤差は10数センチです。将来的には瓦が一枚飛んでも分かるようにしたいですね」

●東野 輝夫(ひがしの てるお)
1984年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了、工学博士。同情報処理教育センター助手、同基礎工学研究科教授などを経て、2002年より現職。「モバイルネットワークの性能解析技術とその応用に関する研究」で2018年文部科学大臣表彰(科学技術賞)、同年「Society5.0実現化研究拠点支援事業」(文部科学省)における「ライフデザイン・イノベーション研究拠点」研究開発課題責任者に就任。

(2019年2月取材)

 

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