究みのStoryZ

知財と法の「これから」を考える

〜バランスのとれた法や制度をめざして

法学研究科・准教授・青木大也

青木大也准教授は意匠法、著作権法をはじめとした知的財産法の専門家。VR(バーチャルリアリティ)空間のデザインやパロディ表現など、知的財産の保護と活用をめぐって幅広く研究している。また、学部・大学院学生らのほか、社会人や中高生に対する講義を通じて知的財産に対する関心を喚起している。

知財と法の「これから」を考える

問題点を指摘し、よりよいルールづくりを

意匠法は、物品のデザインの保護を目的とする法律。現行意匠法の問題点について、「物のデザインしか保護できないことが問題。例えばVR空間に投影された物に依存しないデザインのデータや、GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)そのものなどは、原則として従来の意匠法の埒外でした。また、自動車メーカーが車のデザインの意匠権を取得しても、ミニカーやゲームでそのデザインが使われた場合、物が違うことから,意匠権で抑えることができません。物だけでなくデザイン/データそのものが重要になってきている現状に今のルールは対応できていません」
意匠法は昔の『物のデザイン』を念頭にした法律。「今、デザインをめぐる経済・ビジネスが、物のデザインから画面のデザインなど無体のデザインにも拡大しています。国際的にはこの動きに対応し,保護を推進する国も多いのに、日本はこのままでいいのか、考える必要があります。国によってある程度共通化が進んでいる特許法と比較して、意匠法は国ごとに異なる点が多いため、海外の動向をフォローし、比較研究することにもやりがいがあります」

パロディはなぜ保護されるのか

著作権とパロディについても研究。他人の著作物を使って表現するパロディは、現在は何も手当されていないが、なぜ保護され、どういう範囲で保護されるか。特に日本では狂歌から同人誌までパロディ作品が盛んに制作されているという環境がある。「保護すべき理由には、例えば、『批判のための許容』といったものが考えられますし、また実際上、パロディを創作することにより新しい作家が生まれ、文化の発展にも繋がる。一方、パロディと称して他人の著作物を使って荒稼ぎする人も出てき得る中で、権利者の保護の観点も求められる。そのなかで、どんな理由でどこまで許容されるべきかを検討しています」

社会人や他学部生,中高生にも知財教育を

SNSなどを通じ、誰でも簡単にコンテンツを創作・公表できる時代、一般の人への知的財産権教育も大切だ。「著作権について中高学生に話した時は、関心を持ってもらえるよう、『君は今、著作権を何個もっていると思いますか』というところから話を始めました」。学部学生向け全学共通教育科目の講義「知的財産モラル」を担当したこともある。「受講生の関心も高く、自分も知らないうちに権利を侵害しているかも、と身近なものと気づいた人が多いようでした。そういう嗅覚を身につけることは大切です。ただ、萎縮してしまうと何もできなくなるので、過度に恐れず、『大丈夫』と『大丈夫でない』の境を感覚として理解してもらえればと思います」
さらに、法学研究科知的財産法プログラム(特別コース)では、主に社会人を対象に講義を担当している。「熱心な受講生が多く、また受講生の社会経験や専門性から逆に教えられることも多くあります」

青木准教授にとって研究とは

疑問を持ち、明らかにすること。また、どうするのが社会全体にとってよいことなのかを考え、提言していくこと。法律学は人間が作ったルールを検討するため、割り切れない学問分野。例えば権利を保護してほしい人と、著作権を利用したい人がいて、両方に理由がある。双方の言い分をどう法解釈や立法に盛り込むか、バランスが肝心です。さらに、法学の研究者には、実業家をはじめ世の中に『法的な考え方、視点』という武器を提供する側面もある。裁判が当事者双方の斬り合いの世界だとすると、研究者は刀鍛冶のような存在でもあるように思います。

●青木大也(あおき ひろや)
2006年東京大学法学部卒業。08年同大学法学政治学研究科法曹養成専攻修了。同年同研究科助教、11年大阪大学知的財産センター特任講師を経て、13年より現職。

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(2018年2月取材)