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世界各国の知性を結集し 経済理論の充実を

免疫疾患の治療・予防目指し、新しい道開く

社会経済研究所・教授・芹澤成弘

昨年度の「大阪大学国際共同研究促進プログラム」に採択された「最先端経済理論研究と制度設計への応用」が、順調なスタートを切っている。代表者の芹澤成弘教授(社会経済研究所)に、プログラムの内容や効果について聞いた。

世界各国の知性を結集し 経済理論の充実を

─芹澤先生の研究テーマはどんなものですか。

「資源配分」についての研究です。「世の中にいろいろある有限な資源を、人々が幸福になるように使うには?」ということを理論的に考え、最適な制度設計を試みます。

学生が世界の知に触れる機会を

─採択プログラムはどのような内容ですか。

社会経済研究所がより国際的な研究をできる機関になろうとするなかで、国際共同研究を大学が後押ししてくれるのはうれしいことです。プログラムが求めるものとして「研究だけでなく、大阪大学の他の研究者や学生にも成果が還元されるような内容を」とあります。それに応える企画の一つとして、来日する研究者に大学院生向けに講演をしていただきます。学生には世界の一線で活躍する研究者から刺激を受けてほしいですね。

─講演の狙いはどんなものですか。

例えば、5月に来日したトムソン教授は、ゲーム理論の世界有数の研究者である一方、若手研究者を育てるのがうまいことでも有名な人です。経済学分野の研究者として成功するためのノウハウを持っており、そのノウハウをまとめた著書『A Guide for Young Economist』は、経済学研究者の間では世界的なベストセラーになっています。

「経済学で頑張りたいが、どういう方向に努力すればよいのか」と悩む若い人には、その道で成功しかつノウハウをよく知っている学者から直接話を聞ける良い機会になるでしょう。大阪大学が優れた研究者を育てるのに役立つ企画になったと思います。

インド、スペイン、シンガポールなど世界中から阪大へ

─共同研究者はどんな人たちですか。

インド統計学研究所のDebasis Mishra(デバシス・ミシュラ)准教授がメインの共同研究者で、阪大に1カ月以上滞在して研究します。ご存知のようにインドは経済が大きく伸びていまして、研究も今や相当高いレベルにあり、そういうインドの研究機関と共同研究を行うことにはメリットがあると考えています。他にもシンガポール国立大学、スペインのバルセロナ自治大学、米国スタンフォード大学、ノースウェスタン大学、ロチェスター大学など。世界各地の最高水準の研究者と研究を進めていきます。

資源配分、どう効率的に行えるか

─どんな研究が進められているのですか。

「資源配分」という研究のテーマを、少し理論的に説明しましょう。資源をうまく使うには、情報を把握しないといけません。例えば、コーヒー豆を欲しい人に分けるとします。今、社会の人はどれほどコーヒーを欲しているか、どういう意味で欲しているか、誰が一番それを有意義に使ってくれるかなどについての情報があれば、それを元に配分できます。しかし、現実の社会でその情報を手に入れることは容易ではありません。そんな中で、いかにちゃんと情報を引き出して、それを元に良い配分をするか。それが、私たちの研究テーマです。抽象的なようですが、それ故にさまざまな実問題にあてはめることができます。

共同研究者の一人であるChew Soo Hong(チュウ・スー・ホン)氏は、シンガポールにおける車両購入ライセンスの割り当て制度の分析を行っています。シンガポールは人々の生活水準が高く、みんな車を持ちたいのですが、淡路島ほどの面積の小さな国なのでそれは到底不可能。そこに、車を買う権利を誰に配分すればよいのかという資源配分のテーマが出てきます。この他にも、空港の発着枠配分、周波数ライセンスの割り当てなどさまざまな場面で生じる資源配分の課題をテーマに、海外の研究者と共同で研究を進めていきます。

これらの共同研究者の実績に直接触れることで、学生や若手研究者にも刺激をあたえ、大阪大学の研究が一層進んでいくことが期待されます。

■ 大阪大学国際共同研究促進プログラム

最先端の研究を展開している外国人研究者と大阪大学の研究者との共同研究を支援することにより、研究力を一層高め、大阪大学のグローバル化を促進することを目指す阪大独自のプログラム。海外の研究機関で主任研究者として最先端の研究を展開している外国人研究者が、年間1カ月以上大阪大学の研究室で共同研究することを条件にサポート。H25年度から開始し、22プログラムが進行中。2014年6月時点で、13ヶ国の22の大学や研究機関と国際ジョイントラボを設立。

「周波数ライセンス」オークション制度導入を

芹澤教授は、ゲーム理論の専門家であるミシュラ氏と共同で「携帯電話の周波数ライセンス割り当て」など、資源配分の制度設計につなげる分析を行っている。

◉ 「神の見えざる手」が働く

周波数ライセンスは、特定の周波数の電波を独占的に利用する権利で、今日の携帯電話事業には不可欠なもの。携帯キャリア各社が巨大な営業利益を上げていることからわかるように、その価値は莫大だ。日本を除く多くの先進諸国では、周波数のオークション制度が導入されている。

芹澤教授は「オークションは、周波数ライセンスの最も効率的な割り当て方法。『マーケットには神の見えざる手が働く』という言葉がよくあてはまる実例です。入札するのは高い事業能力を持ち、計画の実現可能性が高い事業者に絞られます」と語る。事業が失敗した場合は、事業者だけでなく金融機関や投資家も損失を被るので、無謀な入札が行われる可能性が低くなるからだ。「オークションでは、入札額によって自動的に決定が行われます。特に同時競り上げオークション という仕組みを用いると、各事業者の予想利益額が脱落額と等しくなり、最大事業能力を持った企業が落札者となります。通常では得にくい各事業者の事業能力や計画実現可能性の情報が、入札額自体の中に自然に含まれることになるのです」

◉ 日本では比較審査方式

他の国ではオークションによる周波数割り当てが一般的であるのに対し、日本では未だに政府などによる比較審査方式が採用されている。この点について芹澤教授は「割り当て事業者の決定が、周波数の生み出す価値を最大化できない非効率的な方法で続けられている」と指摘する。周波数を土地にたとえると、日本の方式は、東京駅前の超一等地を無料に近い価格で特定事業者に貸し出すようなものだという。「産業政策としては、対価なしのライセンスは補助金に等しいものです。オークションを導入すれば落札額は国家収入となるだけではく、ライセンスをよりよく配分することができます」と強調する。

●芹澤成弘(せりざわ しげひろ)

筑波大学社会学類卒業。米国・ロチェスター大学Ph.D(経済学)。専門はミクロ経済学、ゲーム理論、メカニズム・デザイン。2004年から現職。2010〜13年、社会経済研究所長。

(本記事の内容は、2014年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)