編集されたRNAに関与する酵素活性を発見

編集されたRNAに関与する酵素活性を発見

DNA修復からRNA編集へ 精神疾患の治療開発に光

2013-8-6

リリース概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の倉岡功准教授のグループはヒトのDNA損傷に関わるタンパク質hEndoVを同定し、この酵素活性を詳細に調べた結果、このタンパク質がRNA編集に関与するRNA切断酵素i-RNaseであることを明らかにしました。RNA編集は、人において統合失調症や鬱病といった精神疾患との関わりが示唆されていることから、この発見したi-RNase活性は精神疾患の治療開発につながることが期待されます。

なお、本研究成果は英国時間8月5日10:00に英国科学雑誌「Nature Communications (ネイチャー、コミュニケーションズ)」オンライン速報版で公開されます。

研究の背景

生命情報を担う重要な物質であるDNAは、生命が正常に営まれるためにその情報を安定に維持しなければなりません。しかし、一方でDNAは放射線、紫外線、化学物質などの外的要因、および細胞の代謝過程で発生する活性酸素などの内的要因により絶えず損傷を受けています。これらの損傷は、細胞死や突然変異を誘発し、ひいては老化・がん化など引き起こします。

今回我々が研究したDNA修復タンパク質hEndoVは、従来、DNA損傷として生じたイノシンを持つDNAを修復することができると考えられていました。イノシンは自然発生的に生じ、高頻度で突然変異を引き起こします。このタンパク質機能の重要性とイノシンの危険性とは、このタンパク質を持たないマウスが高頻度でがんになることからも示唆されてきました。

我々はhEndoVタンパク質を精製し、その機能を詳細に解析した結果、このhEndoVはRNA編集により生じたRNA上のイノシンも切断し、その編集を失活させることがわかりました。この切断活性は、i-RNaseと呼ばれるもので、RNA編集機能の中でその存在は予測されていましたが、長い間未知のままでした。RNA編集は、人間の脳の中で頻繁に生じている事がわかっています。その機能は統合失調症や鬱病といった精神疾患との関わりがあることから、RNA編集の重要性が示唆されています。我々の解析から、このタンパク質はRNA編集されたRNAの運命を決定づける因子であることが明らかになりました。

hEndoVは、発がんに関わるDNA修復に関与する事が示唆されていました。今回我々は、hEndoVにi-RNase 活性を有していることを発見し、精神疾患に関わる RNA編集に関与している事を明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

DNAの修復反応はゲノムをDNA損傷から防御し、その安定的な遺伝情報維持に関与します。その機能の破綻は、細胞に突然変異を引き起こし、ひいては発がんの原因になります。またRNA編集は、遺伝子の多様性を導くため、本来遺伝子の持つ生命情報を改変します。この機能は人間の脳の複雑さに深く関わっています。これらの2つの事象に1つのタンパク質hEndoVが機能しているということは非常に興味深いものです。これらの研究がさらに行われてゆくことで、RNA編集が関与する精神疾患の治療につながっていくものと考えられます。

特記事項

本研究成果は英国時間8月5日10:00に英国科学雑誌「Nature Communications (ネイチャー、コミュニケーションズ)」オンライン速報版で公開されました。

参考URL

大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 機能物質化学領域 生体機能化学グループ
http://www.bio.chem.es.osaka-u.ac.jp/index.html