世界初 磁性体で新しい『電気磁気効果』を確認

世界初 磁性体で新しい『電気磁気効果』を確認

ナノスピントロニクスにおける新しい可能性に期待

2012-6-2

<リリース概要>

大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻電子光科学領域の白石誠司教授、豊川修平(博士前期課程1回生)、同研究科物質創成専攻物性物理工学領域の阪井裕孝(2010年度博士前期課程修了生)、田村英一特任教授、鈴木義茂教授、及びヨーク大学(英国)の廣畑貴文博士らは、フラーレン中のコバルトナノ粒子群の新しい物性を発見しました。

コバルトは磁石となる金属(磁性体)であるために外部から電場を加えることによる物性の変化が少ないと考えられてきました。研究グループではコバルトをナノ粒子状にしてフラーレン間に埋め込むことで、従来困難とされてきた電場によるコバルトの磁化制御と磁場によるコバルトナノ粒子の電荷状態制御が同時に実現できること、その効果により新しい磁気スイッチング効果が現れることを見出しました。このような効果は「電気磁気効果 」と呼ばれ酸化物などでは知られていましたが磁性体でこのような効果が発見されたのは世界で初めてのことであり、ナノ磁性体を用いたナノスピントロニクスという研究分野の更なる発展が期待されます。

本研究は文部科学省グローバルCOEプログラム(物質の量子機能解明と未来型機能材料創出)、旭硝子財団研究助成などの助成により行われました。

本研究成果は2012年6月1日発行の独国科学雑誌「Advanced Functional Materials」のオンライン速報版にて公開されます。

<研究の背景>

磁性デバイスの特徴は磁石の性質を利用したスイッチング効果にあり、今後のユビキタス社会に必須となる省エネルギーテクノロジーのキーデバイスと期待されています。磁性デバイスの効果の大きさには磁気抵抗 比が指標として用いられますが、分子と磁性ナノ粒子からなるナノコンポジット系では低温で100万%以上もの巨大な磁気抵抗比が出ることがわかっていました。しかしながらその起源は全くの謎であったためナノスピントロニクスに関連する研究者がその解明に挑戦していました。

<本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)>

今回の研究では、代表的な磁石材料であるコバルトを直径2-3ナノメートル程度の粒子にし、ナノ炭素分子であるフラーレン(C 60 ) の中に埋め込んだナノコンポジット系を作製し、外部から電場と磁場をそれぞれ独立にかけることで磁気抵抗効果がどのように現れるかを観測しました。

今回作製した素子構造と、観測した現象を図1、図2に示します。図1のようなデバイスに対して垂直方向に磁場をかけながら2つの金電極間に挟んだC 60 -Coナノコンポジット間の電流=電圧特性を測りました。その際、外部からかける電場を制御した場合と、外部からかける磁場を制御した場合に同じように大きなスイッチング効果が生じ、磁気抵抗効果の大きさは2 K(マイナス271℃)の低温ですが140万%にも上ることがわかりました。この現象の起源を理論面から考察した結果、コバルトナノ粒子群があたかもマルチフェロイック 材料のように、電場で磁化状態を、磁場でナノ粒子の電荷状態をそれぞれ独立に制御されているために現れたスイッチング効果(電気磁気効果)であることがわかりました。従来のマルチフェロイック効果は誘電体機能と磁性体機能を有する複雑な組成からなる酸化物系化合物(TbMnO 3 など)でしか現れておらず、このような単純な組成の材料で類似の効果が現れることは大きな驚きです。

この研究成果はナノスピントロニクスに新しい性質(物性)があることを実験的、理論的に確かめた成果です。現在はまだ効果が低温でしか現れていませんが、今後の研究の進展により室温においても同様の巨大な効果が今回発見した新しい電気磁気効果により現われ、高性能磁気デバイスに応用されることが期待されます。

<参考図>

20120602_1_fig1-1.png

20120602_1_fig1-2.png


図1:作製したデバイス構造図(上)とC 60 -Coナノコンポジットの概念図。磁場はデバイスに垂直にかけている。

20120602_1_fig2.png


図2:観測した磁気抵抗効果。測定温度は2K(マイナス271℃)。
観測した磁気抵抗効果。横軸は外部電場、縦軸は磁気抵抗比を表す。黒線は電場を0Vから増やした場合に観測された磁気抵抗比、赤線は電場を0Vに向けて減らしていった場合に観測された磁気抵抗比。(b)は外部から磁場をかけた場合の磁気抵抗効果。

<発表論文>

"Advanced Functional Materials” online advanced publication
“Observation of Magnetic-switching and Multiferroic-like Behavior of Co Nanoparticles in a C 60 matrix”
(C 60 マトリックス中のコバルトナノ粒子による磁気スイッチングとマルチフェロイック的な振る舞いの観測)
Y. Sakai, E. Tamura, S. Toyokawa, E. Shikoh, V.K. Lazarov, A. Hirohata, T. Shinjo, Y. Suzuki, M. Shiraishi

<参考URL>

用語説明

フラーレン

炭素原子60個からなるサッカーボール状の分子。1985年に英米の化学者によって発見され、発見者は1996年のノーベル化学賞を受賞した。ナノカーボン分子の1つ。

電気磁気効果

1つの材料において電場によって磁性を、磁場によって誘電性を同時に制御できること。本研究ではコバルトに誘電性がないために、マルチフェロイック材料における電気磁気結合とは異なる機構であるが、電場によってコバルト粒子群の磁性を、電場によってそれらの電子状態を制御できるため、一種の電気磁気効果とみなすことができる。

磁気抵抗

電気抵抗が2つの強磁性体の磁化の向きの相対位置によって変化する現象。磁化の向きが平行のときは抵抗が低く、反平行状態のときは抵抗は高い。

マルチフェロイック

強磁性・強誘電性・強弾性などのフェロイックな効果が複数発現する材料系のこと。電気磁気効果 が発現する。