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かくれ肥満(内臓脂肪蓄積症)への秘策!?

現代日本人短命のもと

医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授/大阪大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌・代謝内科科長、栄養マネージメント部長、糖尿病センター長・下村伊一郎

身近な健康・医療情報を、大阪大学の研究者がちょっとミミヨリとしてお届けするコラム。

かくれ肥満(内臓脂肪蓄積症)への秘策!?

現代日本人の問題はかくれ肥満(内臓脂肪蓄積症)である。体重では大した肥満ではなくても、欧米型の食事・運動不足でお腹の中の内臓脂肪が増えてくる(Fig1)。この貯まった内臓脂肪こそが悪の親分である。脂肪組織がホルモンのような物質(アディポサイトカイン)をたくさん作り、血液を介して全身の臓器に影響を及ぼしていることが大阪大学の研究によりわかってきた。なかでも、1990年代半ばに発見したアディポネクチンは、生活習慣病全般を防ぐ“善玉ホルモン”である。内臓脂肪蓄積・メタボリックシンドロームではこの“善玉ホルモン”アディポネクチンが低くなり、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症(心筋梗塞や脳梗塞など)、肝臓病、腎臓病、呼吸器疾患、癌などいろいろな病気につながる。特に日本人は、この内臓脂肪蓄積→低アディポネクチン状態に注意しなくてはならない。なぜなら、欧米人はとり過ぎたエネルギーを皮下脂肪へどんどん溜め込んでいけるが、日本人など東アジア人は皮下脂肪への容量が少なく、内臓脂肪へ溜め込みやすいからだ(Fig1)。

では、どうすればよいのか? やはり健診で言われる「理想体重」まで減量しなくてはならないのか? 最近の研究では、全体で今より3kg程度の体重をゆっくりと少しずつ減らすこと(1年間で考えれば毎月300gくらいのペース)で、病気そのものや重症化をかなりの程度、予防できることがわかってきた。というのも、内臓脂肪は減量により効率的に減る性質を持ち、低アディポネクチン状態の改善も期待できるからだ。ヒトの体には、そもそも元気さ・正常さを保とうとする素晴らしい仕組みがたくさん備わっている。重い体重・特にたまった内臓脂肪で負担をかけないことは、この仕組みを正常に働かせ、再活性化し、ひいては各臓器を守るという長寿への秘訣となるだろう。

健康に良い食事を腹八分目とよく言うが、いろいろな美食を得た現代人にとっては、そのことを楽しまない手はない。ただ、ご馳走を毎日食べるのではなく(実際食べられないが)、普段は素食を心がけ、全体として体重を増やさない、少しずつでも体重・特にたまった内臓脂肪(日常ではお腹まわりを意識!)を減らし気味で行くというのが、現代人にとっての“楽しみながらの養生訓”ではないかと思う。

大阪大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌・代謝内科

糖尿病、肥満、メタボリックシンドローム、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、高尿酸血症など生活習慣病・代謝病全般、ならびにクッシング症候群やバセドウ病などの内分泌疾患全般の診療を行っている。
https://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/departments/endocrine.php

(本記事の内容は、2019年2月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)