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オートファジー(自食作用)の仕組みの一端をライブイメージング技術で解明

細胞生物学上のパラダイムシフトに

生命機能研究科・准教授・濱崎万穂

すべての真核生物に備わっている細胞内の浄化&リサイクルシステム「オートファジー(自食作用)」が脚光を浴び、機能解析が進んでいる。細胞生物学が専門の濱崎万穂准教授は、2013年、老廃物や不要物を消化する細胞器官「オートファゴソーム」が、小胞体とミトコンドリアとの接触部位で形成されることを明らかにし、オートファジーが始まる仕組みの一端を解明。〝細胞の掃除屋〟ともいわれるオートファジーが、様々な疾患から生体を守っているメカニズムの解明などにも意欲的に取り組んでいる。

オートファジー(自食作用)の仕組みの一端をライブイメージング技術で解明

分解機能を持つ「オートファゴソーム」のメカニズムを追究

「オートファジー」の主な機能は、細胞内の新陳代謝と、細胞が飢餓状態に陥ったとき、自己成分の一部を分解し、生きるための栄養源を確保すること。そのプロセスは、標的を包みこむ「オートファゴソーム」の形成から始まる。「まず細胞質に隔離膜と呼ばれる扁平な膜が現れ、伸長しながら標的を包み込みます。やがて隔離膜の末端同士が融合することで、オートファゴソームの二重膜構造(脂質膜)が完成し、そこに分解機能を担うリソソーム(細胞小器官)が融合し内容物を消化します。必要なときにだけ現れ、機能を果たすと消えるという極めてユニークな特性を持っています」。濱崎准教授は、大学院博士後期課程から一貫してオートファゴソームの膜動態(膜の変化)を研究。「標的を包みこむ二重膜が、いつ、どこで、どのようなきっかけで形成されるのか、その起源を含むメカニズムの解明に取り組んできました」

小胞体とミトコンドリアが協働しオートファゴソームをつくる

オートファゴソームの形成場所について論争が続くなか、濱崎准教授は、「小胞体(細胞質中の膜構造をもつ小器官)とミトコンドリアが接している部位でオートファゴソームが形成されている」ことを証明。論文が2013年、英科学誌「Nature」に掲載され、小胞体とミトコンドリアが協働してオートファゴソームをつくるという研究成果は、細胞生物学上の大きな発見として注目された。
その研究成果を導いたのが、濱崎准教授が得意とする「ライブイメージング」だ。世界でも類を見ない蛍光3色同時ライブ撮影により、小胞体とミトコンドリアが接している場所から、オートファゴソームの隔離膜が現れることが示された。「3台の高感度CCDカメラと蛍光3色により、ダイナミックに動く小胞体・ミトコンドリア・オートファゴソームの位置関係を正確に捉えることに成功しました」

オートファジーの制御は疾患の予防・治療にもむすびつく

今後の課題は、オートファゴソーム形成に関する、さらなるメカニズムの解明。小胞体とミトコンドリアの接触部位で、どのような因子が働き、オートファゴソームが形成されるのかの研究を進めている。また、近年、様々な疾患とオートファジーの関係も明らかとなってきていることから、医学系研究科の研究者と共に解析中で、特にRubiconという普段オートファジーを負に制御するタンパク質に着目している。既に、Rubiconが増えるとオートファジーの減少から脂肪肝が悪化することを消化器内科の先生方と報告済みだ。がんや神経変性疾患、生活習慣病などにも関係するのではないかと期待し検証中、将来の創薬を見据え、「オートファジーを制御(活性化)する」研究も進めている。
これら基礎研究の面白さは「何かが解明されると、また次の謎が現れるキリの無さ」と濱崎准教授。研究者をめざす後輩には常に、「好奇心と探求心を持つこと、そして客観的に観る目を培うことが大事」とアドバイスしている。

濱崎准教授にとって研究とは

楽しくて、打ち込めること、好きでないと続きません。自分の目で見て考えるタイプなので、とにかく実験が好き。研究者育成にも取り組んでいますが、頑張っている院生がいると、すごく嬉しいですね。

●濱崎万穂(はまさき まほ)
1997年、カナダビクトリア大学理学部卒。2000年、九州大学大学院理学部修士課程修了。03年、総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程修了。97~98年、東京大学医科学研究所研究生。02~07年、日本学術振興会・特別研究員。07~09年、ドイツ・ヨーロッパ分子生物学研究所・博士研究員。09~10年、大阪大学微生物病研究所・助教。2010~13年、大阪大学大学院医学系研究科遺伝学講座遺伝学教室・助教。13年より現職。18年8月、国際学術誌「Nature Cell Biology」の「Women in Science」に選出された。



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(2019年2月取材)